青い携帯と履歴
これちか
青い携帯の充電
「ふう」
充電は欠かさずしている。
かかって来ても出ないけど。
それから履歴を確認するのは、自分の携帯の方。
クミちゃんとのメールのやり取りが残っている。
まさかクミちゃんが結ちゃんだとは思わなかったけれど、
夏休みどこか行く?
っていうのを聞くがためにメル友申請なんて笑えたっけ。
「…」
充電はしているんだ。
でもかかってこないということは、あのデコピン3発が効いているということだ。
「…ワン切りしたらどうなるのかな」
はは、まさかそんなこと、俺が。
そう思いつつ、携帯を操作する。
「…いや、駄目駄目!」
また自分の携帯を見る。
柳瀬橋への電話の履歴が断然多い。
それから、父さんへの電話と。
電話帳には北中の人間の名前も残っている。
「みんな…元気かなあ」
吹奏楽部の演奏を聞きに行った帰り、柳瀬橋と約束した。
「絶対、絶対、青陵に入ろう!」
「うん!そんで俺たちも吹奏楽部に入ろう!」
「約束だぞ!」
「おうよ!」
楽しかったなあ。
セッションもたくさんした。
橘に見つかった時も、ひやっとしたけど何とかなったし。
「…1回、だけ」
俺は青い携帯をいじる。
ふ、のところを見る。
藤原結、と登録されている。
そうなのだ、この青い携帯はふしか入っていないのだ。
何らかのロックがかかっていて、
結ちゃんの携帯しかつながらないのだ。
「…1回だけ、」
声が聴きたい。
寂しいんだ、疲れたんだ。
見事にワンギリしてしまった。
「…はは、ばかみてえ」
俺はベッドにぼすんと横になってみる。
かかってくるはず、ないのに。
俺のこと、忘れさせたのに。
「バカみたいだよ俺…」
だらだらと涙が出てくる。
泣かないって決めたのに。
もう二度と、泣かないって決めたのに。
その時だった。
「…え」
電話が鳴った。
着信音は、柳瀬橋が教えてくれたあの曲、荒野のヒースだ。
「…な、なんで、だって、俺のこと、忘れさせたのに、」
ワンギリの電話に掛け直すなんて人いるのか?
それが、あの兄貴だと?
「…も、もしもし」
(…あの、すみませんが、先ほどかけてこられましたか)
ああ、忘れてる、俺のこと。
「…間違い電話だったんです、すみません」
(でも、この番号は記憶にあるんです。今は番号を選べるんです。
だから俺はこの番号にした、そういう覚えがうっすらあって、
それで気になって掛け直してしまいました)
「ど、どんな番号でしたっけ」
(末尾が1113です。俺にとってこれは記念日の番号で、
それを忘れたくなくてそうしました。
でも間違い電話だったのなら、すみません、失礼しました)
結ちゃんの声が他人行儀に聞こえる。
これが、他人に対する声なんだ。
俺に対する声じゃない。
「…あの、」
(はい)
「もうすぐ、3月、ですね」
(ああ…そうですね、卒業式が近いのでみんな忙しいです)
「いや、その、3月3日も近いですね」
(3月3日?…俺の誕生日だ)
「あ、ごめんなさい、切ります!」
(ちょっと待ってください、切らないでください)
「…えと」
(俺…すごく電話が苦手だったんです、何を言えばいいのかとか、
何を伝えればいいのかとか、考えるのが苦手で…
でもあなたと話していると何だか和みます。
それに今、昼休みなんです。あと15分あります。
もうちょっとだけ話してくれませんか)
「…お、お弁当、は食べましたか」
(はい、毎朝自分で作ってます。でも不思議なんですが、うちに見たことがない弁当箱があって、
親にも言われたのですが、炊飯器もすごく大きいものになってるんです。
確かにうちは大所帯ですが、ここまで作る必要ないなって思うくらい、
大きな炊飯器です。今日は暖かいのでベランダで食べました。友達と)
「友達、」
(城善寺という友達です。彼は俺のことをよく信頼してくれます。
だからいろんな話をしています。俺がちょっと口下手だっていうのもあって、
でもそれも今では改善されてきて、楽しくて)
「そう、ですか」
(今年の4月から高等部の3年生になります。えと、俺の話ばかりしてしまいました、
すみません。あなたはどういう人、なんでしょうか)
「…ご、ごめんなさい!」
俺は切ってしまった。
ドキドキしている。
まるで、恋してるみたいな。
駄目だって、俺も忘れないといけないのに。
「結ちゃん、誰からの電話だったの」
「かけ直したんだけど、何だか懐かしい声で…すごく、ドキドキした」
「うわあ、結ちゃんの初恋か?」
「いや、違うよ。俺はそういうの、要らないから」
「うへえ、結ちゃんはほんっと、不思議な人だねえ」
柳瀬橋袂
「…楽しかったなあ、いろんなこと話して、
ご飯ももらって、自転車も教えて」
おじさんに浴衣を着せられて、おばさんにごちそうになって。
「なあ中村、今度は内緒で行ってみない?」
「青陵の吹奏楽部の演奏会か~」
「青陵までちょっと遠いけどさ、俺行きたいの。で、中村と吹奏楽部に入るの」
「え、入学するって意味!?」
「そう。だから受験勉強頑張らないとな。
俺達でも行ける学部あるだろ」
「総合男子部だっけか」
「でもいい噂聞かないんだよなあ、だから総合進学部にしよ」
「それは無理だって!俺たちの成績じゃぜってえむり!」
「でも頑張ってみようよ。俺、お前となら何でもできる気がすんの」
自転車のこともあって、柳瀬橋は俺を崇拝?していた。
「お願い、親友からのお願い!」
「わ、分かったよ…でも勉強はどうなるか分からないぞ、
俺下より数えた方が早いもん」
「俺だってそうだよ」
「推薦とかもらえたらよかったのにな」
「ま、頑張ってみっか」
「うん!」
「中村!中村!しっかりしろよ!目を開けろ!」
薬を飲んだのは中二の時。
家じゃ飲めないから、学校で飲んだんだっけ。
「助けて…誰でもいいから助けてよ!俺の親友を助けて…!」
ああ、また親友って言ってくれるんだ。俺のこと。
「なあなあここ穴場じゃねえ?」
「そだな、人が来ないわ」
「それに花火がよく見える」
「うん、いいとこ見つけたな」
中一の夏。
8月の話。
おじさんに浴衣を着せられて、俺と柳瀬橋は例の穴場を見つけた。
「いつかここに他の誰かも連れてきたいね」
「彼女とか?」
「馬鹿、ちげえよ」
「違くないだろ、そうだなあ、柳瀬橋の彼女、はは、想像できねー」
「中村だってそういうのできるんだからな!
俺、妬いちゃう」
「そういうこと言わないの!勘違いされるぞ」
「でも俺、中村のことすげえ好きだもん。俺のこと馬鹿にしないの、
お前だけだもん」
「俺も、俺のこと馬鹿にしないのお前だけだよ」
「へへ」
「はは」
「腹減った…」
「どしたん、中村」
「うん、ちょい腹減って」
「まだ一時間目だぞ?ご飯食べてこなかったのか」
「あはは…まあね」
「育ち盛りなんだから食べないと大きくなれないぞ!」
中一の冬の話。
「なあ、今日も食べてこなかったのか」
「うん…水は飲んできたけど」
「どしたん、おばさん作ってくれないのか?それともダイエット?」
「なあ柳瀬橋」
「うん?」
「母さんに…見えてないみたいなんだ、俺…」
「…え?」
「いや、何でもない。さあさ、一時間目始まるぞ」
「…中村?」
「嫌だよ、連れてかないで…!お願いだから、お願いします!
高校一緒に行く約束したんです!だからお願いだから!」
あいつが倒れる度、俺は何度も土下座した。
あの二人が親だと分かっていたのかもしれない。
「お願いします…!俺の命の恩人なんだ、親友って言ってくれた、
大事な人なんだ…だから、連れてかないで!」
「自転車乗れなくなっちゃった」
「…うん」
「でも俺、覚えてるよ。中村がちゃんと教えてくれたから乗れるようになったんだ。
感覚は残ってる。
足が直ったらまた乗れるようになるかも知れないし」
「乗れるよ、きっと、また乗れるようになる」
「本当?」
「俺が嘘ついたことあったか?」
「ない、かな」
「疑問形かよ」
「柳瀬橋…」
まただらだらと涙が出てくる。
俺にはお前しかいなかった。
親友と言ってくれた日、すごくすごく嬉しくて、眠れなかったんだよ。
橘とうまくいってくれてるんならいいんだ、
でも、俺もたまには、お前と馬鹿話したいよ。
君島長谷川ペア
「結がいないうちにお話しましょう中村」
「何ですか急に」
「結がいるとお前と話せないからであるよ」
「でも何を」
「どう、でした?」
「どうって」
「セックス!」
ぼぼぼと俺が赤くなる。
「うまくできてた?結、お前のこと泣かせちゃったって言ってたけど」
「あ、あ、あれは、犯罪です!」
「犯罪?」
「俺はあんなの知らなかったし、しかも汚いし、無理やりだし、
すげえケツ痛かったし、
最悪です」
「でも応援団選んでくれましたもんね」
「そうそ、僕たちも役に立てたかなあ」
すごくいい先輩だったんだよ。
俺がひ弱なこと知ってて加減もしてくれたし、
手塚先輩とのことでも長谷川先輩が逃がしてくれたし。
「ファーストキスが手塚先輩とはなあ」
「ムカつく…」
「結にやりたかったなあ、真秀」
「それはそうだよ、だって中村は大事な大事な後輩だし、
結の思い人だし」
「くっそ、どうにかして痛めつけたろ」
「雪、目が怖い目が怖い」
藤原結との出逢い
「あのー…」
俺は柳瀬橋を椅子に座らせたままでその人に近づいた。
「その服、なんて言うんですか」
「服?」
「だって制服と違うし…何だか違和感ていうか」
「…学ラン」
「学ラン?何ですかそれ」
「…」
黙っちゃったよ…俺、怒らせちゃったかな。
「でもかっこいいなあって思ったんです、
何て言うんですか、あの立ち振る舞いっていうのかな、
すごくかっこよかったです、
俺なんかには全然無理だけど…」
「できる」
「できますか?俺でも」
うんと頷かれる。
「俺もやってみたいなあななんて思っちゃいました、はは、
無理なのに。
次、吹奏楽部ですよね?それ終わったら帰っちゃうから、
もうさよならですけど」
「お前、名前は」
「名前?中村…ですけど」
「俺は藤原結だ」
「はあ」
無口、無表情、無愛想。
そんな気がした。
でも、話しかけずにはいられなかった。
何でだか周りがひっくり返ってたし(卒倒中)。
「じゃあさようなら」
「…」
俺は席に戻る。
「何話してたの、あの人と」
「いや、服が気になってさ。見たことなかったから」
「へえ~でもかっこよかったな、応援団」
「応援団ていうんだ、へえ」
たったこれだけのやりとりだったんだ。
それなのに。
(結の視点)
「どうしましたか結、顔が真っ赤ですよ」
「ゆいー?」
俺に何も感じないのか?
それとも、論外?
それに、俺の目をまっすぐ見て話してきた。
吸い込まれそうだった。
それになんだ、この、心臓が破裂しそうなのは。
「君島…長谷川…」
どうすればいいんだろう、この感情を。
これが多分、一目ぼれだ。
十和子の言っていたやつだ。
また泣いてるのか
「また泣いてるのか」
暖炉の前でぐすぐすしている冬至を見つける。
「もう遅いから」
寝よう、と手を差し出す。
「どうして優しくしてくれるんだよ…」
「?」
「俺なんか、放っておいてくれていいのに」
「…」
大事な後輩だし、好きな人だし、と言えない自分が悔しい。
「今日は」
どうして泣いてるんだと聞く。
「母さんが来ただろ、そんで結ちゃんが怪我しちゃって…
俺なんかいなけりゃ、こんなことにならなかったのにって」
「…」
バカだな、と俺は思う。
俺は冬至を守れて嬉しかったんだ。
誇らしかった。
だから満足してるのに、どうしてわかってくれないんだろう。
「ごめんな、結ちゃん」
ううんと首を横に振る。
あの頃は言葉が足りなかったから、冬至を不安にさせっぱなしで。
でも今思えば、俺の変化が冬至によるものだとしたら、
俺はそれが本当に倖せだと思う。
好きな人の影響を受けるというのは素晴らしいことだ。
そして、何よりも嬉しいこと。
言葉足らずでごめん。
顔にも表情がなくてごめん。
でもそのことに全部気づけていなくて、ごめんな、冬至。
着信
「…また鳴った」
何でだかあのワンギリから何度もかけ直してくるようになったんだよな、
結ちゃんは何を考えているんだろう。
顔も知らない人に、しかも間違い電話だと言った人に、
どうしてこう何度も電話をかけてくるのだろう。
「もしもし」
俺は普通に出る。
(あ、すみません、今電話大丈夫ですか)
「大丈夫だけど」
(あの、今お昼休みで、お弁当を食べ終わったところなんですけど、
あと15分あるので、いいですか)
「はい」
(今日、3月3日なんです。前も気にしてましたよね、
俺の誕生日なんですけど、知ってたんですか?)
「…ええと」
(俺、全然そういうのお祝いとかしたこととかなくて、うちは忙しい自営業みたいなもので、
親代わりの祖父と祖母がいたんですが、
その二人にしかおめでとうって言ってもらえなくて)
「親に言ってもらえなかったの」
(忙しい二人なので、3月3日だってのも分かってなかったらしくて…
でも今日はあなたと話せて分かった気がするんです、
誕生日もいいものだなって)
「どうして」
(何だか嬉しくて、つい…俺、17歳になりました。来月から三年生になります。
受験生になります。大学には行く予定です。経済学部に)
「17歳…」
(勉強も忙しくなるけど、部活も夏で引退です。問題なのがうちの部活、廃部になるんです。
元々生存限界っていって3人しかいなかったんですけど、
同期の2人も就職組で忙しくなるので、活動も少なくなると思います)
「そうですか…」
(でも何でだか嬉しいんです、応援団なんて今どき流行らないし、
それに後輩もいなくてよかった。もし後輩がいたら、その子を他の部活に入れてあげようって、
思っていたはずです。何だか不思議なんですけど、吹奏楽部にって思ってました)
「…え?」
(後輩なんかいないんですけど、もしいたら吹奏楽部に入れてあげたいって思いました。
先輩の勝手な考えなんですけど、でもいないからそれは問題ないです)
俺を、吹奏楽部に入れようとしてたのか?
(卒業式、終わりました。二日前に。これから最高学年になると思うと、
ちょっと気恥ずかしいのですが、これで高校ともお別れかと思うと寂しいです)
「…はい」
(でもこうしてあなたに話していると何だかすごく嬉しいんです。
おかしな話ですけど、きっと、もう俺は)
「…俺を吹奏楽部に入れようと、そう考えてたの?結ちゃん」
(…え?)
あ、やべえ、言葉に出しちゃった。
(…あの、今、なんて)
「いえ、あの、ちが、」
(俺のこと知ってるんですか?名前言いましたよね、しかもちゃんづけで)
「…し、知ってます」
切らなかった。
切れなかった。
「あんたがすごく不器用だったのを知ってます、そんで最近はこんなにもべらべら喋って、
器用になったなあってすごく思います。
俺はそれがすごく嬉しいけど、でも同時に寂しい」
(…俺、昔の話なんですけど、すごくつらいことがあって、悩んでたんです。
1年の時です。いきなり団長になれって言われて、1年なのに団長、つまり部長になりました。
でも俺のせいでみんな辞めていっちゃって、残ったのが今一緒の同期の二人です。
1年なのにいいのかなと、どうすればいいのか引継ぎもなかったし、
同期も助けてくれましたけど、やっぱり重圧感が半端なくて。
でも11月13日の学校説明会に嫌々ながら出た時だったんです。
俺はそこである人と出逢いました。すごく、目が綺麗な人でした。
茶色い目をした人です。その人が、それは何だと正装の学ランのことを聞いてきたんです。
俺のせいで会場はめちゃくちゃだったのに、その人は普通に話しかけてきてくれて、
入ってくれればいいなと思ってました。青陵に。あ、俺、青陵の高等部なんですけど、
でも4月8日の入学式にその人はいなかったんです。
探したんですけど、どこにもいませんでした。
それがショックで、俺は毎日退屈だなあと思っていました。
勉強も部活も、友達もいましたが、本当に退屈だった。
でもどうしてか、今は不思議と退屈じゃないんです。
あなたから電話がかかってきたから、すごく嬉しくて、間違い電話だって言われても、
どうしてか掛け直さずにはいられなかった。
多分俺はあなたのことを知っているんです。あなたも俺のことを知っているんですよね?
だから俺の選んだ番号を持ってて、俺の名前も知ってる。
名前…教えてくれませんか)
「…」
どうしてこんなに寂しいんだろう。
どうして、こんなに涙が出るんだろう。
「っく…っく…」
(また、泣いてるんですか?)
「…っく」
(俺が泣かせてるんでしょうか?それとも何かつらいことでもありましたか?
俺で良かったら話聞きます、何でも話してください)
俺は電話を切った。
くそう、どうしてだよ。
俺を吹奏楽部に入れようと考えてたなんて、初めて聞いたよ。
「つまりは、俺を吹奏楽部に入れて、吹奏楽部を柳瀬橋と近藤と俺にして、応援団を廃部にするつもりだったの?
そこまで俺のこと、考えてくれてたの?
何でそんなこと、一言も言ってくれなかったじゃん、
俺が応援団を継ぐって思ってたのに、
なのに応援団潰してまで俺を戻そうとしてくれてたなんて、」
バカだよ、本当に。
俺なんかのために、そこまで考えてて。
「逢いたいよお…逢いたい…結ちゃんんんんん」
俺は久々に号泣した。
それにびっくりして隣の部屋から冬馬が走ってきた。
「冬至君、どうしたんだよ、冬至君、」
「うわあああああああああん」
「何で泣いてるんだよ、お腹空いたのか?それとも頭痛いのか?」
今日が3月3日なんだよ、お祝いしてやりたいなって思ってたんだよ。
俺はお前が好きだったんだよ、すごくすごく、誰よりも好きだったんだ。
忘れて欲しくなんかなかったんだ。
覚えててもらいたかった。
でも消えたいと思って、願ってそうしたのは自分なんだ。
逃げたのは俺なんだ。
なのに、今になって逢いたいなんて、
俺は本当に馬鹿でしょうがない。
泣けて泣けて、仕方ないんだ。
「冬至君、とにかく一旦座ろう、それじゃ土下座だよ」
「ううううう…」
「何があったんだよ、僕に言ってよ」
「冬馬、…今日は3月3日だったんだ…」
「あ、藤原君の誕生日か」
「俺、考えてたんだよ…ずっと…お祝いしてやりたいなって思ってたのに…
なのにそれができない、つらい、苦しい、痛い、」
「…冬至君、熱があるよ、ちょっと寝た方がいい」
「俺のせいなのに…俺が一番にお祝いしてやりたかったのに…」
「世界最強の名が泣くよ。君、神様だろうよ。できること、したらいいんじゃないの」
「できること…?」
「僕も一緒にいてあげるからさ、行ってみよう、3月3日のあの世界に」
冬馬が笑ってくれる。
「僕は変われたよ、冬至君にここに連れてこられてから。本当にいい方向へ変われた。
だから感謝してるんだ、君に。君が泣いてたら僕は困るよ。
もう、僕は君のことを藤原君から取ろうとか思ってないし、
それに、友達だって思ってる。
だから、今日だけでいいから、行ってみないか?
向こうが思い出せる時間内だけでも、逢ってみようよ。
やばくなったら僕が時間を止めるから、
だから行ってみよう」
「…うん…でもプレゼントとかないし…」
馬鹿だなあと冬馬が笑う。
「君がそうじゃないか。冬至君の存在と短期記憶がそれになる。
だから泣くのやめて行こうよ。
邪魔しないで見てるから、僕は」
青い携帯と履歴