天国への階段

これちかうじょう

山都蛍

「へえ、ここが天国への階段なんだ」
「神人類でも知らないことあるんだな」
「はざまのことは知ってたけどさ、仲宗根から聞いてたから。
 でも、天国に来るのは初めてだ」
「あ、あれが門か。門番が二人いる」
俺達は階段を上がっている。
死んだ人が、殆どの人が来る天国。
「あのー」
「何だね君たちは」
「死人じゃないな、何用だ」
どう説明したらいいもんかな。
俺は馬鹿だから唸っていると、隣で冬馬がべらべら喋り出した。
「僕たちは確かに死人じゃないですけど、
 でも逢いに来たんです、もうじきここから出て行く人がいるって聞いて。
 前の名前は、山都蛍っていう名前だった人です。
 ちなみに僕たちははざまから来ました」
はざま、という言葉に二人が顔を引きつらせる。
「ま、まさか、はざまと様ですか」
「様?」
「失礼いたしました、すぐ門を開けますゆえ、少々お待ちを」
俺ってそんなにすごいの?と冬馬に聞く。
「だから言っただろ、冬至君は世界最強だって。
 神様なんだよ、もはや」
「ほえー」
門がごごごごと大きな音を立てて開いていく。
そして、天国の中に、俺達は入った。

「うへえ、すげえ花ばっか。本当に天国ってお花畑だったんだ」
「あっちの世界にもどこの世界にもない花ばっかりだねー」
「見たことない花だな、これ。でも結ちゃんの方が綺麗だ」
「はは、まーたそんなこと言って」
「ふん、いいんだよ、俺は神様なんだぞ!」
「はいはい、従います従います」
山都蛍という人間は、水泳部のエースだった。
しかし、顧問の先生によって体罰をくらい、
それを他の部員も見て見ぬふりをし、
それがきっかけで体調を崩して入院、
最期には精神的に病んで亡くなった生徒だ。
「今は何ていう名前なのかな」
「そうだな、名前も変わるわな。じゃあ探すの大変じゃねえの」
「でも神様の君なら分かるんじゃないの」
「うーん、どうしたものか」
簡単ですよ、という声がしたのは直後だ。
「簡単ですよ、探すのは。新しい命になる前には、まだ以前の姿でおりますゆえ」
「…あの、あなたは?」
「門番から聞きました、はざまと様ですね?
 私は天国の番人です。
 ええと山都蛍という方ですね、青陵学院高等部、総合男子部二年、それだけ分かれば、
 制服姿でおられると思います」
「じゃあ青陵の制服を探せばいいんですか」
「しかし…あの方は冬に亡くなっておりますが、夏服のままです。
 それは気を付けてください」
「夏服、ねえ」
俺もまだ着ていた服だった。
9月は、まだ衣替えの季節じゃなかったから。
「とにかく探してみよう。でも人、多いなあ」
「でもうちの制服は軍服みたいだからすぐにわかるよ。
 総合神学部の制服をモチーフにしてるからね」
「ああ、冬馬のいた学部か」
「青陵は昔、あの時代、戦争の拠点地だったからね。生徒も軍服を着させられていたんだ。
 だから仲宗根も時々見た時冬服着てただろう?
 あれは冬服がメインだったんだよ、あの時代は」
「へえ」
ちょ、ちょっと待って。
俺はぎょっとした。
あの背中の赤い人、青陵の制服じゃないの?
「あらら、見つけたね」
「でもあの背中赤いの、血じゃないの」
「そりゃそうだろうよ、体罰くらってたんだもん。血だらけの制服着てたって普通じゃない」
「お前なー、元先生だったら助けてやったらどうだったんだよ、
 分かってて無視でもしてたのか」
「いや、水泳部の顧問は名前忘れたけどすげえ怖い人でさ、
 いくら僕でも近づけなかったんだよ」
背中が真っ赤だ。
青陵の制服は薄い青色をしているんだけど、
それが真っ赤って、何。
「あのー、山都蛍、さんですか」
俺は声を掛けてみる。
「…え」
「ほら、水泳部の。あ、俺は応援団の副団長やってたんですけど面識なかったですね」
「応援団…ああそうか、インターハイとか俺が成績悪かったから来られなかったんだよね、
 でも俺に何か用?ついでに君たちは何?」
「僕は古関冬馬、で、こっち藤原とう」
「正岡神田凪です」
うへえ、と冬馬がにやける。
「俺は死んだんだよ。だから多分ここに来たんだと思う。
 でもさっき番人から生まれ変わりの命令を受けた。
 そろそろこの姿ともお別れだよ」
「でも…背中痛いんじゃないですか」
「痛かったけど、我慢できたんだ。俺には好きな人がいて、俺の命の恩人なんだけど、
 その人がいてくれたから何とか生きようと我慢してた。
 でも、最期の頃にはモノが食べられなくなって、
 点滴も入らなくなって、それで、栄養失調で死んだ」
「…水泳部って運動部管轄でしょ、藤堂会長何してたんだよ…」
「うちの顧問は外部からのコーチだったから、うまく生徒会から逃げられたんだよ。
 でも竹刀でばしばし叩かれるたびに苦しかった。
 でもね、最期に、俺の葬式の日に、あの人が話せるようになった。
 あの人っていうのは俺の好きな人でね、耳は聞こえるんだけど喋れない人だったんだ。
 俺は何度もその人に救われた。
 死のうと思って交差点に入った時も、止めてくれた人だった。
 その人が喋れるようになって、俺は嬉しいんだ。
 できればまた逢いたいって思うけど、無理だって分かってる。
 多分違う時間軸に行くと思うから」
「…それがいいこと、なのかな冬至君」
「人を1人救ってるわけだしな、それが功を奏して生まれ変わりができるんだな」
でも、と山都蛍は笑う。
「逢えなくても、忘れてしまっても、俺は一生あの人のことを好きでいると思う。
 違う人と恋をしても、多分どこかで片鱗が出てくるんだと思う。
 でもそれは、もうあの人はあの人の人生を生きてて、
 俺はもうその隣にはいない。
 寂しいけれど、お別れもできたし、俺はそれで満足なんだ。
 人生ってそんなものなんだって思う。
 誰かを好きになって、そして自分のことも好きになれた。
 俺は感謝してるんだ、あの時に死なないで良かった。
 ちゃんと寿命を全うして死ねて、本当によかった」
寿命を全うする、というのは俺も同じだ。
ちょっと意味合いが違うけど。
「でもどうして俺に逢いに来たの」
「話がしたかったんです。人生観っていうのかな、そういうのを聞きたかった。
 本来なら死ぬべきじゃなかったあなたが、
 寿命を全うして死んだって今言ったでしょ。
 俺はそれが聴きたかった」
「…君は、応援団の副団長だって言ってたね」
「はい」
「じゃあ藤原君の好きな子って君?水泳部でも噂になってたよ、
 学校イチの美人が溺愛してるって。
 でも身長差とかどうしてたの?君、すごく小さいじゃない」
「…身長のことは言わないでくれますか」
「ああごめん、コンプレックスだった?」
「でも俺は今、あっちにはいません。はざまってところにいます。
 はざまとっていう存在になりました。
 だからここにも来れたんです。ついでに言うと、
 この冬馬ももう少しで変われるところです」
「え、僕も変わるの?」
「今度はいい人生になるといいですね。
 痛い思いなんてしない方がいい。もっと楽しく、バカやったり笑ったり泣いたり、
 そういうの、すげえいいと思うから。
 だから今度は倖せな人生を送ってください」
山都蛍、という人間はすごくかっこよかった。
「ありがとう、そう言ってもらえると何だか救われるよ。
 ああもう行かなくちゃ、番人が呼んでる」
「今度はどっちですか」
「性別?多分だけどまた男だよ」
「そっか…でも話せてよかったです。今度こそ、倖せになって」
「ありがとう」
違う時間軸で生きていくのか、好きな人と別れて。
まるで俺達みたいだ。
「ねえ冬至君、さっきの話、何」
「冬馬が変わるって話か」
「そうそ、僕は神人類で永遠に死ねない体なんだよ?
 これ以上どう変わるのさ」
「言ったろ、俺は神様だ。
 お前をすごーくいいやつにしてやるんだよ、
 そのためにゆめんととしてお前を癒してたんだ。
 なあ、何かできることないか、今」
「えー?」
冬馬が唸っている。
「…あ、分かったかも」
「それだよそれ。まーた俺は人を進化させてしまったよ」
「…すごいや、何だか分かる。冬至君の痛みが分かる気がする」
「柳瀬橋の共有ってのをお前にいい意味で植え付けたんだ。
 背負うんじゃなくて、理解する力だ。
 だからきっと今までよりずっと、冬馬は人を気遣えるいいやつになれるよ」
「そっか…共有っていうか、理解っていう意味合いでもあるな。
 冬至君、君すごく疲れてるな」
「まあね、9月から、いや、その前からだけど俺には癒しがなかったからな」
「ご飯くらいしか?」
「そうそ」
帰ろう、と俺は言った。
寿命を全うするっていうことを学んだ。
学べた。
「多分、俺の寿命は全うされたんだと思っていたけれど、
 違うんだ。
 まだまだやれることがある。
 それを、やらないといけない。
 俺は居なくなればいいとだけずっとそれだけ考えてきたけれど、
 それじゃ駄目なんだって分かった。
 俺はまだ、死ねないんだ」
「だから、冬至君は死ねない体になってるって」
「それを逆に利用する。
 そんでもって、俺は世界をもっとよくすることにする」
「かっこいー」

門番

「いやしかしはざまと様が来られるとはな…」
「でもなにゆえに天国に来られたのだろうか」
「逢いたい人がいるって言っておられた。
 逢えただろうか」
「恐らく、番人様が案内したはずだ」
「そうだな、そうでもしないと、こんな大勢の中から一人を見つけることはできまい」
こんこん、と音がして私たちは驚いた。
内側からノックなんて、何だ?
「あのー、帰りますー」
「は、はざまと様だ!開けるぞ!」
「はい!」
何とも器用なことを、普通に門を開けて帰ればいいものを。
「お邪魔しました、あと、番人さんにもよろしくお伝えください」
「はい」
「では、俺達はこれで」
「あ、あのはざまと様!」
はい?とはざまと様が振り返る。
「そ、その…お聞きしたいことがありまして、よろしいでしょうか」
「何ですか」
「な、なにゆえここに?お逢いできたのですか」
「はい、逢えました。それに収穫もあったし…とにかく、ありがとうございました」
「は、はい、お気をつけて」
「はい」
しかし、あの年ではざまと様になられたとは…。
相当器用な人間だったのだな、と私たちは顔を見合わせてしまった。

天国への階段

天国への階段

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日
2022-11-25

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  1. 山都蛍
  2. 門番