死にたがり競走

U._.U

ごきげんよう

人ってなぜか、競争をしたがる。そして、勝ち抜いた者がなによりも格好よく見える、らしいのだ。
かけっこで1番早い子、誰よりも顔が小さい子、脚が細い子、テストの点数が高い子。学生時代、決まって彼らは人気者とはやし立てられていた。カースト上位の者たちだ。やがて、ルールを越えた、体育祭の競技以外のものなど、概念的な競争だっていくつもある。
1番好かれてる人、1番優しい人、1番美しい人、1番頑張ってる人、など。一個人としての基準も相まって、とても曖昧だというのに。なにを基準に上を目指しているのだろう。そうして、一人一人長さの違う物差しを揃え合わせて、その物差しの平均値くらいの能力を持つ人を皆普通って呼んでいる。地球っていう星にせっかくおさまっている人間という枠をわざわざ狭めて、枠をはみ出た人は蔑まれる。パズルなんかじゃないんだから、自分の形とぴったり当てはまる者以外とも仲良く皆で手を繋げばいいのに、自分と少しでも形が合わない生き物には個人の感情で手を差し伸べたり、差し伸べなかったりする。自分が差し伸べられない側だと不幸だと嘆くのに、自分は差し伸べなかったことをなにも気にせずに息をしているのだ。
また、普通とされる枠組みや基本的に手を差し伸べてもらえる側の形は時を流れるごとに変わり、オン眉パッツン、黒髪ボブ、ウルフカット、シースルーの前髪など、量産型は年々形を変えていく。そうやって自分の形より流行りの形を保って、誰かと手を繋いでいられることに安心しているのだろう。
時には競争が、生き急ぐことや死に急ぐことだという時もある。あの子は左腕をたくさん切っているのだから、私はもっと切らなきゃ。あの子はオーバードーズを繰り返しているんだから、私も未成年飲酒に未成年喫煙にオーバードースに、ああいっそのこと死んでしまおう。あの子は生きているんだから、死んでしまった私の方がすごいんじゃないの。しかし、死なない。ニュースでは度々、自らこの世を去った人について取り上げられているが、Twitterでは比にならないほどの死にたがりが蔓延っている。
9月1日に、あの人の誕生日に、失恋した日に、親に追い出された日に死にます。星になります。星は未だに、増えていない。Twitterに蔓延っている死にたがりが皆、亡くなったとしたら葬儀場は大繁盛だろうな。

「なんで空を見上げているの」
星のない夜空を見上げていると、彼が言った。
「わかんない。星もないのにね、夜空で曇っているわけじゃないのに星が見えないのは不思議だからかな」
「あるよ、あそこ」
隣で、夜空の邪魔をする電線に向かって、指をさした。なんだ、冗談を言っているのかと笑ってみると、電線に隠れた一番星が顔を出す。隠れん坊で見つかった子供みたいに、星がきらりと笑った。

「早起きだね、他の子はまだ寝てるのに」
「偉いね」
「私なんて、お昼に寝て夕方に起きる遅起きだから見習わなきゃ」
「でもぼっちだよ」
顔を合わせて笑った。あの一番星のようにきらりきらりと。
夜空に浮かぶ一番星は本当にひとりぼっちみたいで、ぼうっと眺めていると、黄色い明かりが視界の端に見えた。月だ。
時々昼間にも顔を出すほど夜で一番早起きな月は、いつも日が暮れたあとひとりぼっちなのだ。そんな月を、ひとりぼっちにさせないために一番星が早起きしてるのかも。


「その考え方いいね」
「じゃあ君も早起きだから、ひとりぼっち?」
「俺は最近、ひとりじゃないな」
「私が一人にしないように、寝ずに起きるの待ってるからだよ」
私の目をまっすぐ見て、じゃあありがとうって言わなきゃって彼が言って、それを見守るように月と一番星が空で輝いている。
二つの星の光を浴びたその夜、いつもとなんら変わりない日常なはずなのに、二つの星の光はずっと綺麗で毎日こうであって欲しいと願った。ホットココアの一番甘い部分をティースプーンですくって飲んでいるみたいに、些細なことだけど、そういう些細なこととくだらない日常が人生の豊かさを決めるのだと思う。
天気のいい春の日にだけ目を向けてみる、たんぽぽの花の鮮やかさくらい些細なことがふとした瞬間胸を打たれたり、ちょっとの憂鬱に浸っている冬の夜空の美しさだったり、気分のいい日に普段は見向きもしない太陽とにらめっこをしたり、そういう些事なことを繰り返して、積上げて、ああ幸せだと思うのだ。
だんだんと色づいてきた紅葉の横で、ふざけた絵を描いてはしゃいだ夕暮れ前がとても楽しかったみたいに、スマホなんて板切れよりアナログの世界は心を健康にしてくれる。
走馬灯のラインナップに選ばれるのは強烈な記憶ばかりだろうけど、眠る前に思い出すのはそういった小さな宝物みたいな記憶ばかりだよ。
君がこれを読んだ日は、目を瞑る時に幸せな気持ちでいられるといいな。

死にたがり競走

ちょっとエッセイみたいだ

死にたがり競走

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-25

Public Domain
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