摩周湖に魅せられて

摩周の霧に惑わされて自殺未遂

 摩周湖に魅せられて

 私は東野陽子、半年前に失恋して全てを忘れて出直そうと旅に出たのです。
 失恋ってこんなに辛いものなのか、失恋から一ヶ月未だに心に刻まれた寂しさが私を苦しめる。いったい私はどうすれば良いの、仕事も手に付かず退職して心はもぬけの殻。
 人は失恋したら、どうやってその痛みから逃れられるでしょうか。
失恋したら貴方はその苦しみを忘れるために何をしますか。その中には旅に出て自分を見つめ直す人も居るとか。私も同じく旅に出ました。旅先は北か南か、そんななか北海道を選びました。
哀愁漂う摩周湖は失恋した私にピッタリでした。この代表曲に霧の摩周湖があります。もう四十年も昔にヒットした曲で若い人は知らないでしょう。私が生まれる前の歌ですから。でも私は母の影響で、母が時々口ずさむこの歌が好きでした。それが霧の摩周湖、一番好きなのはこの曲の第二節。いや好きと言うよりも今の自分の心境と同じだと思ったのです。

霧の摩周湖

♪霧にだかれて 静かに眠る
星も見えない 湖にひとり
ちぎれた愛の思い出さえも
映さぬ水に あふれる涙
霧にあなたの 名前を呼べば
こだませつない 摩周湖の夜

あなたが居れば楽しいはずの
旅路の空も 泣いている霧に
いつかあなたが 話してくれた
北のさいはて 摩周湖の夜♪

もちろん真っ先に摩周湖を向かいました。摩周湖と見ている内に何故か急に哀愁が漂って来たのです。『あなたが居れば楽しいはずの』その貴方が居ない寂しさは耐えらなくなりました。摩周湖の霧に心を奪われたのか、それとも魔性と呼べるその霧が私を呼ぶのか。つい私はフラフラと摩周湖の展望台にある柵を超え断崖に立ち、前に一歩踏み出したのです。その時でした。誰かが私の身体を自分の身を乗り出し抱き寄せられました。それは驚いた事に家に居る筈の母でした。流石は母、私の全てをお見通しだったのです。失恋した事も会社を辞めた事も、しかし何故この北海道の摩周湖に立ち寄る事まで知って居るとは驚きでした。娘の心まで読めるなんて母にはテレパシーがあるのだろうか。
「おっお母さんどうして此処に……」
「バカな子ね、貴女は何を考えているの、数日前からおかしいのと思って後を追って来たのよ。失恋した気持ちは分からないでもない。でもそれくらいで死を選ぶなんて人生はこれからよ。まだ若いしこれからも人との出会いが続いて行くのよ。しっかりしなさい」
止めようと思えば家を出た時に止められたはずなのに。何故この摩周湖まで来たのだろう。だが止めずに最果ての地まで来たのか。止めても無駄だろう、だから気の済むまで見守っていたのか。それだけに、この時の母の形相は凄かった。裏を返せば可愛い娘のへの愛の叱咤である。その後は二人で摩周湖周辺を見て、あとは観光見たいになったが、母も摩周湖が好きで一度来て見たかったのだろう。母は目的を果たし観光気分だが私は複雑だった。
 陽子はフラフㇻと摩周湖の霧に飲み込まれるよう断崖絶壁から飛び降りようとした。その時の気分は魔法を掛けられたように、この湖は美しいが余りにも神秘的で人を引き付ける魔力を感じた。
 母は目的を果たしたから(娘を救った)私の心とは裏腹にご機嫌だ。
「陽子、実は貴女が生まれる前に摩周湖に来たのよ。まだ霧の摩周湖の歌が出来る前でね。その時の摩周湖は晴れていて本当に綺麗だったわ。よく言われるけど晴れた摩周湖を見ると結婚出来ないとか婚期が遅れるとか言われるけど、あれは迷信ね。だって私達ちゃんと結婚出来たもの。今回、本当はお父さんと来たかったけど、仕事で都合つかなくて」
「そうなんだ、お母さんには思い出の摩周湖ね」
「陽子もいつか新しい彼が出来たらくればいいよ。何も摩周湖が悪い訳じゃないでしょ」
「そうね、失恋の傷も此処に捨てて行くわ。そしていつの日か此処に来たい」

つづく

摩周湖に魅せられて

摩周湖に魅せられて

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-13

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