表裏

 レモネードをのんでいる、少女が予知する、崩壊。だいじょうぶ、再生とともにある、というフォローめいたセリフを、紙ストローを噛みしめそうになりながら、わたしは傍聴している。だれかの脳に接続されている。映像化される思考を、ときどき、B級映画みたいだと評する、えらそうなひとを、おなじ人類だと思われたくないわぁとぼやくのが、ともだちのアマナツだ。すこしだけおかしくなって、でも、さいきんのこのあたりの群衆のことを想えば、まともな方なのかもしれない。(そもそも、まとも、の定義とは?)わたしには、つくられたにんげんのNがいて、それで、わたしの世界はそれなりに平和で、幸福であると信じていて、無益な争いでだれかを傷つけるだれかを、残酷だ、と軽く軽蔑できる程度には、ひととしてまっとうであると確信し、同時に、驕っていると自分自身への憤りも感じている。にんげんくさいと思う?と問うと、Nはかならず微笑んで、あなたはあなたでいいのですと、答えになっているのか、なっていないのか、釈然としない慰めを寄越して、でも、わたしはそんなNを一生、愛している。

表裏

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-12

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