ice my heart

 ルルがさしだした。心臓。あたたかい毛布で、くるむ。つめたい夜だったから、みんな、なんだか心に、余裕がない感じで、かなしみと、怒りと、むなしさと、やるせなさが綯い交ぜになった、12℃の空気が肺を満たしていた。海の近くに、サーカス団のテントがあって、あそこにはライオンが、くまが、いるのだと想うとすこしだけ、凍てついたと思っていたからだのなかのどこかが、ふるえた。ときどき、夢と、現実の境界があいまいになって、ルルに逢いたくなって、ぼくは、ルルとひとつだった頃を懐かしんで、いまは義務みたいに、あのひとのための人形となって、でも、不幸せではない。「そんざい」しているから。肉があり、骨があり、血が流れ、痛みを感じ、思うことができるから。
(ルル)(サーカスで、火の輪をくぐらされ、玉乗りを強要されて、ライオンは、くまは、なにを思うのだと思う?)
 わからないまま、日々は過ぎ去っていく。

ice my heart

ice my heart

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-10

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