月を喰う
りんごのケーキを切り分けているあいだに、星の肉がやわらかくなり、あしをとられて、沈む。同情が、すべて、偽善であるとしんじてうたがわない、あのこたちが、だれかに、無意識に傷つけられて自ら、息をとめてゆく。(まるでその術しか知らないかのように)氷河期がきたら、いっしょに氷漬けになろうと云われて、これは、あるひとつのプロポーズなのかもしれない、と思いながら、欠けていく月をみていた。あざやかな明滅をくりかえして、網膜が、一瞬、世界が真っ白になったとき、ゆるせなかったものをゆるせる気分になって、でも、いつまでもこべりついてはがれない、殺意めいたものは確かにあった。スマートフォンの電源をおとして。遮断して。だいじょうぶ、あなたは、あなたでいい、という、こころのなかの、やさしいだれかの言葉に救われて。二十一時。
月を喰う