イントロダクション

(らら)
(あなたはいま、だれかを好きでいる?)

 べつに、ファミレスではなく、この街にも洋食屋さんがあるのだから、そちらでいいと思うのに。今夜はファミレスの、チーズのはいったハンバーグの気分だったのだ。ワンコインの、ちいさなピザを、夢中で食べているこどもがとなりのテーブルにいて、もっと騒々しいかと恐々したけれど、こどもはおとなしかった。水族館で、イルカや、アシカや、ペンギンを観賞したあとの心持ちで、わたしは、これから好きになるかもしれないけれど、つぎ逢ったときはきらいになっているかもしれない、まだ、はっきりしない関係性のひととふたりでいて、そのひとは、とんかつ定食をえらんで、わたしは、じぶんの住んでいるアパートの近所にある定食屋さんのとんかつの方がきっと、百倍うまい、なんて、ひそかに思っている。思いながら、ハンバーグのチーズの溶け方に、不満を抱いている。

(らら)
(あなたがいまいるところには、ファミレスとか、あるの?)

 片割れを想い、眠れない夜もあって、でも、さいきんは、すこしだけやさしい夢をみる。とんかつ定食のとんかつが一切れ、そのひとのくちにはこばれてゆく。箸の持ち方がきれいでいい。好きになるかはわからないけれど。ピザを食べているこどもよりも、いっしょにいる母親が始終、スマートフォンをいじっているのが不快である、と、わたしは静かに憤りながら、彩り程度で添えてあったレタスを咀嚼する。
 ちょっと、しなびていた。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-05

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