十一月の夜
夜の詩を、だれかが口遊む。わたしたちの命を、愛し慈しんでくれる存在が、次第にいなくなってゆく。冬の目覚めに気づいたとき、深く色づいた森に溶けこむみたいに、あのひとはその輪郭を失って。きえる。
星を散りばめた海で、こころのやさしいくじらが泳いでる。バルコニーから、あつあつの紅茶をふうふうしながら、ネムとふたりでみている。光る水しぶき。ブランケットに包まり、アウトドアチェアに両ひざをかかえて座り、おだやかに波打たせる彼らの、おおきな尾びれのうごきに見惚れていた。こわいものはなにもないよと、おしえてくれているみたいで、泣けてきて、わたしは瞬きを数回くりかえして。きれいだね、と、歌うようにつぶやくネムの方はみないで、うん、と頷いた。
十一月の夜