空腹
マドレーヌを貪り食っていた。とにかく、お腹が空いていたのだ。そのあいだにも、街のあらゆるところでは恋が、愛が、つねに交わされていて、ぼくはマドレーヌをぬるくなった紅茶で流し込み、少々うんざりした表情を浮かべていたようで、ノダくんが、他人は他人で、きみはきみじゃないかと、なんか、聖人君子っぽいことをぼくに投げかけた。どうでもよかった。べつに、だれが、だれに恋して、だれを愛しても、かまわないし、四六時中、そういうやりとりがおこなわれていても、確かに、当事者ではないぼくには、関係のないことだった。ノダくんが、街の陰で腐っていた生命体をあつめて、ひとりで埋葬しているのは知っていて、でも、ぼくはなにもしていなかった。なにもしていないのにお腹は空くのだから、にんげんというのはめんどうな生きものだなぁと時々思った。恋と愛にみちあふれた街だけれど、だいたい、そこには、憎悪、というものが付随しているため、実情、街は混沌としていて、いうなれば、ハッピー、みたいな空気は皆無だと気づくと、やっぱり、ぼくはわかりやすく、うんざりしてしまうのだった。
空腹