a moment on tuesday

 はく、はく、と呼吸する、水のなかのさかな。半地下の喫茶店で、ひっそりと生きている、あのひとが、わたしだけにつくってくれる、クロックムッシュ。雨が止んだので、ドライブに行こうと言った、こいびとは、瞬く間に朽ち果てた高層ビルのなかで、にんげんではないものと、ひとつになった。(同化、というときこえはいいけれど、実際には、吸収、されたのだった)
 わたしはこの、火曜日の、ほんのわずかなあいだに、ドライブのやくそくと、こいびとを失い、高層ビルはにんげんではないものにのっとられ、混沌、とするかと思ったけれど、世間はあんがい、平然としていることを、街を歩いて知った。SNSはひどく、あれているというのに。かれのやさしさにならば埋もれて、窒息してもかまわない、というくらい、好きだったかというと、わからない、と思いながら、わたしは、あつあつのクロックムッシュにナイフをいれる。洗いものをすませた、あのひとが、ひたすらに、はく、はく、と口を開け閉めする、水槽のなかのさかなを、ながめている。

 天窓には、月。

a moment on tuesday

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-18

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