箱のなかのふたり
ねえ、
はんぶんくらいほろびたはずの、星の、それでものこっている森に、あなたたちのようなひとは、まだ、たくさんいるの?と、たずねると、そのひとは、おおきなくちをあけて、りっぱな牙をのぞかせながら、あくびをして、それから、どうだろう、と答えた。ぼくの、からだの、やわらかいところが好きだという、そのひとに、やわらかさだけならば、ぼくじゃなくてもいいのではと、拗ねたこともあるけれど、それでも、そのひとは、ぼくがいいのだと云うから、ぼくは、そのひとが好きである。あいしている。ぼくのあたまを、ぱくりと丸呑みできそうなほどにおおきなくちも、うれしいとぴんとたち、かなしいとへこりとたれ、きもちがいいとぷるぷるとふるえる、三角形の耳も、ふくらみ、しぼみ、ときに手足よりも自由にうごく、尻尾も。みんな、みんな、いとしいのだった。
窓際のベッドから、みあげる、夜空には、くもがながれて、ときどき、弓のように細い月が、かおをだす。たよりない月明りが、まだ、なんとか、生命体が存在できうるほどには機能している街を、ぼんやりと照らしている。
毛むくじゃらのそのひとは、ぼくのからだをおもむろに抱きしめて、きみたちとおなじくらい減っているかもしれないし、やたらめったらに増殖しているかもしれないし、すでに亡きものとなっているかもしれない、と、すこしだけさみしそうに言った。ぼくは、深呼吸をして、そのひとのからだにずっとこべりついている、朝靄のなかの森のにおいと、かすかな獣臭で、肺をみたして。今宵も、熱にうなされる。
箱のなかのふたり