秋の庭園

 ものしずかな その男は
 秋の季節に咲く花だけを栽培する
 こぢんまりとささやかな庭園をもっていた。

 かれ 最愛のひとを愛するように大切に庭園を整え、
 ひたむきに水を遣り 虫を指でそっと払い、
 秋 炎ゆるように花々が庭を彩ったけれど、
 窓辺からそっと覗きこむように男はそれ見遣り、
 片恋に胸をどぎまぎさせる少年のようなはにかみの微笑、
 そのほかの季節は しんと緑が鎮まっているような印象で、
 むしろ男は 春夏冬のほうに働き者であった。

  *

 男は八月の陽ざかりに死んで、
 その骸 庭園の緑にうずもれるように横たわっていた、
 愛を享けた花は男の死際を覗くことすらできず、
 緑はしんと艶を光らせるばかりで、
 太陽は無関心に 冷たい爬虫類の美しい眸を投げた。

  *

 庭園は九月に花ざかりを迎えた、
 花々は男の不在でむしろ映えるように炎えていた、

 独り暮らしの男の箪笥から大量の詩編が発見され、
 家主に庭の土の中へ埋められた、
 花は一斉に萎れ砂が毀れるようにさらさらと墜ち、
 陽の目を二度とみない詩へ わが身を供物と身投して、
 詩の熔けた土との境界線 ほうっと闇の裡に秘める光に喪わせたのだった。

  *

 誰もいなくなった しんとしずかな緑の庭園は
 いまもどこかにあって 月夜は銀に照るらしい。

秋の庭園

秋の庭園

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-11

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