秋の庭園
ものしずかな その男は
秋の季節に咲く花だけを栽培する
こぢんまりとささやかな庭園をもっていた。
かれ 最愛のひとを愛するように大切に庭園を整え、
ひたむきに水を遣り 虫を指でそっと払い、
秋 炎ゆるように花々が庭を彩ったけれど、
窓辺からそっと覗きこむように男はそれ見遣り、
片恋に胸をどぎまぎさせる少年のようなはにかみの微笑、
そのほかの季節は しんと緑が鎮まっているような印象で、
むしろ男は 春夏冬のほうに働き者であった。
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男は八月の陽ざかりに死んで、
その骸 庭園の緑にうずもれるように横たわっていた、
愛を享けた花は男の死際を覗くことすらできず、
緑はしんと艶を光らせるばかりで、
太陽は無関心に 冷たい爬虫類の美しい眸を投げた。
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庭園は九月に花ざかりを迎えた、
花々は男の不在でむしろ映えるように炎えていた、
独り暮らしの男の箪笥から大量の詩編が発見され、
家主に庭の土の中へ埋められた、
花は一斉に萎れ砂が毀れるようにさらさらと墜ち、
陽の目を二度とみない詩へ わが身を供物と身投して、
詩の熔けた土との境界線 ほうっと闇の裡に秘める光に喪わせたのだった。
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誰もいなくなった しんとしずかな緑の庭園は
いまもどこかにあって 月夜は銀に照るらしい。
秋の庭園