隣の芝生は青いけれど
波を蹴る。月がまるい。となりでしろくまが、おちついて、と言う。おちついてるし、と答えながら、ぼくは、ぬれたはだしで、砂浜を跳ねるように歩く。みえないけれど、海の向こうには、ここよりも幸せな国があって、ぼくらはいつも、映像だけで知るその国の暮らしに憧れている。ぼくのスニーカーをもって、しろくまが、ぼくのうしろからのそのそと、ついてくる。きょうは暑かったから、アイスでも食べたい気分だったけれど、いまは、あったかいコーヒーが飲みたいかも。ひとりごとみたいに、しろくまがつぶやく。海面にできた月の道は、水平線までのびて、それをたどればぼくらも、幸せな国に行けるのだろうかと想像する。家の近所の工場で、あたらしいにんげんはどんどんつくられているのに、この街はなにも変わらないままで、にんげんだけが増えてゆくばかりで、とくべつに不幸というわけではないのに、なんだか日々、鬱々としていて、むしゃくしゃもするし、あたまのなかがぐちゃぐちゃになることもあるけれど。しろくまがいてくれるから、となりでねむってくれるから、ぼくは、ぼくでいられているよ。いまのところ。
「コンビニに寄って、はやく帰ろう」
ふりむいて、しろくまにそう言うと、しろくまは目を細めて、うん、と頷いた。
隣の芝生は青いけれど