寒露の頃
都会のにぎやかさに、のまれて、息をすることをわすれた、刹那、高速道路の照明が、赤く光った。明滅をくりかえし、断続的な映画を観ている気分で、きみが眠っている冷凍睡眠のカプセルが、いつか、ぼくの目の前で壊れてしまう想像にうなされる、夜の、人気のない複合施設の圧迫感に、めまいがした。とっくにもう、おわってしまった夏を恋しいと思いながら、憎むみたいに、蝉の抜け殻をつぶして、指のすきまから、ぱらぱらと降り落ちてゆく飴色の粉雪。二十三時の残虐性。
世界の色がふたつだけになり、ふとわいてくるかなしみを、だれかがアイスクリームといっしょにその体温で溶かしてくれないかと期待して。
寒露の頃