銀狐の影

 さながら 転げ墜ちても往くように、
 月みすえ 山並をひっそりと登ると、
 やがて風景は、花を剥くようにまっさらに剥がれて、
 楚々たる白雪が──天上の砂のように降りそそぎました。

 其処には 臆病で優しい気性の子狐がいて、
 銀に燦る毛並を 一刹那壮麗にうつろわせましたが、
 さっと拭われるように消え去って、わが眸に影残し、
 白雪が──しゃんと銀の衣擦れ曳いて、眸に一条落ちました。

 ああ わたしはこれで佳かったのです、
 ああ わたしはこれをむしろ希んでいたのです、
 わが眸には銀の子狐の翳宿り、白雪に空と結ばれた── 一度きり。

 さればわたし、ひとを信じることができるのです、
 昇るうごきで転げ堕ち、斃れ ふと空仰げば青空でありました、
 一度きり、彼方の貴女と結ばれたわたし──眸に銀狐、光と戯れて。

銀狐の影

銀狐の影

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-08

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