銀狐の影
さながら 転げ墜ちても往くように、
月みすえ 山並をひっそりと登ると、
やがて風景は、花を剥くようにまっさらに剥がれて、
楚々たる白雪が──天上の砂のように降りそそぎました。
其処には 臆病で優しい気性の子狐がいて、
銀に燦る毛並を 一刹那壮麗にうつろわせましたが、
さっと拭われるように消え去って、わが眸に影残し、
白雪が──しゃんと銀の衣擦れ曳いて、眸に一条落ちました。
ああ わたしはこれで佳かったのです、
ああ わたしはこれをむしろ希んでいたのです、
わが眸には銀の子狐の翳宿り、白雪に空と結ばれた── 一度きり。
さればわたし、ひとを信じることができるのです、
昇るうごきで転げ堕ち、斃れ ふと空仰げば青空でありました、
一度きり、彼方の貴女と結ばれたわたし──眸に銀狐、光と戯れて。
銀狐の影