早生

 土のなかはあたたかいから、あのこたちが、みずから埋まろうとする。きれいだ、と生まれてはじめて思った、となりの家のおねえさんが、月のみえる夜に跪いて祈るだけの、ただ祈るだけのクラブで、スカートをよごしても跪く姿にすこしだけ、どきどきしたのはひみつにしておきたい。きれい、と同時に、はじめてなにかに、他者に、対象物に、興奮したのだ。それは、わたしが、おねえさんには抱いてはいけない類のものだと、すでに知っている年頃だったゆえ、心のなかでおねえさんに何度も、ごめんなさいと謝りながら、わたしは、わたしをなぐさめていた。おねえさんも、おねえさんといっしょのクラブのひとたちも、果たして、なにを祈っていたのか、わからないけれど、おとなになったいま、こういうのはわからない方がいいのだと思う(あの頃は、おねえさんのことはなんでも、わかりたかった)(嗜好も)(思想も)(おなかのなかも、底も)(ぜんぶ)

「冬がちょっと、はやく生まれちゃったみたい」
「はやすぎ」
「気が急いたのかしら」
「げんきがいいのね」

 土のなかで、あのこたちが、ぽやぽやと会話をしているのを、わたしはなんとはなしに聞き、然して飲みたくもない缶コーヒーを飲む。
 つめた~いばっかりの自販機で唯一の、あったか~い飲み物が、コーヒーだった。

早生

早生

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-06

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