不幸と神経
1
──不幸に真実なんてありますか、
と、わたしがまっしろなワンピースを着た女性に問うと、
──まっさらに剥かれた神経が感受するいたみがそれよ、
と、アイボリーにうつろう金の髪した女性はこたえる、
──それは感受する側の裡に在るそれでしょう、
聖性の有無を信仰心の存在に負わせるのとおんなじでしょう、
不幸という外的状態に真実のそれはあるのですか、
と、執くましろのアネモネのようなきゃしゃな女性に訊くと、
──それだって神経だわ、不幸からあらゆるもの剥ぎ落せば、
不幸の神経がいたましいほどに夜空にさらされ、
非情な痛みに躰をくねらせ、反映の苦痛に身を捩る。
2
──不幸の神経はどんな形状をしていますか?
──形状なんてありません、唯光です、既に此処に満ちるそれです、
もしひとが光のみを感覚できるのだとしたら、
ひとはあまりな真実の不幸に、はや生きることができないでしょう、
それ導くのは光伴れ去る音楽です、光と音楽の綾織る舞踏をご存知?
──詩作です。はい、はい、詩人は、はや生きることができません。
──死にぞこないとして書きなさい、それがあなたの理想でしょう?
──女神よ 詩人の往き着く処は、
剥かれた神経と剥がれた神経が性愛の衝動で結びつき、
光と光の内奥の陰部を繋ぎ熔かして、
匿名のケダモノ昇り「O」と魂の喘ぎを洩らすことでありますか?
──わたし女神じゃない、知りませんわ。
貴方って根っから愚かで独りよがり、どこまでも女とセックスが好きね。
3
とおくたなびくまっしろな、
無辜に剥がれたお空から、
エミリの翳 天使の騎兵隊が
わたしを迎えにきてくださいました、
おんなじお歌がきこえます、
おんなじお歌がきこえます、
わたしの魂のためいきと、
おんなじお歌がきこえます。
扨て 先は永くはないでしょう、
先は永くはないでしょうねえ、
おんなじお歌が聴こえるのですから
おんなじお歌がきこえます、
天から授かる稀有で貴い無名の歌へ、
これから堕ちて往けるのかしら。
不幸と神経