歴史よ バッハよ 喪失よ
はや ぼくはバッハの音楽をしか聴きたくない、
かの乱痴気な、躁がしいpsychedelicな音楽は聴きたくない、
ベエトーヴェンは魂の躍動を急かすからイヤだ、イヤだ!
はやぼく、バッハのしんと投身し侍るような曲だけが好ましい!
歴史よ バッハはけっして芸術家ではありませんでした、
歴史よ バッハは一教会オルガン弾きにすぎませんでした、
はやぼくは バッハの音楽をしか聴きたくない、
あとフォーレと、サティと、ビルエヴァンス諸々、後はイヤだ!
ああ 平伏せよ、全我を委ね抛り侍るのだ──わが身を。
バッハよ ぼくのうらがえしはぼくでありました、
バッハよ ぼくは貴方と幾らかのほかは聴きたくもない、
ぼくは全身で──ありとある光と音楽を散らかし、
その乱雑と不潔と軽蔑との混沌でしずかに喪って往く、
しずかに しずかに喪って往く、バッハと結ぶ魂のほかを。
歴史よ バッハよ 喪失よ