Pint

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運命

それは突然訪れた違和感だった。

仕事終わり、先輩と車で帰っている道中に電話がかかってきた。
『ごめんな、今柿谷運転してるやろ?スピーカーにしてくれへん?』電話は上司からだった。
言われるがままにスピーカーボタンを押した。
『柿谷ごめん、仕事終わりで悪いんやけどさ、そのまま洛南に向かってくれへん??』
俺も先輩も面食らった。
「え?洛南ですか?」そのままの調子で先輩がいった。
『せやねん。今日な、急遽洛南に用があって、車で行けばよかったんやけど、訳あって電車で来てもうたから迎えにきて欲しいねん』
ついでにな?と上司は続ける。
『俺明日の現場東海やから、前乗りせなあかんねん。せやから迎えにきてもらったら京都駅まで送ったるから、電車で帰ってくれへんかな?』
「あー…僕は構いませんが…」そう言いながらこちらを見た先輩に俺は目で返事をした。
「40分ほどかかりますが、大丈夫ですか?」
『大丈夫やで。飯でも食うとくわ。気をつけて来てな』
ぷーっぷーっと電話が切れてからも、上司の名前が映っている画面をしばらく見ていた。
「どうしました??」
そんな俺に先輩が言った。
「いや…京都駅かぁって思って」
「あ、嫌でしたか??」
         、、、、、、、
「違うんですよ。このタイミングで京都駅かぁって思ったんです」
「…なんかあったんですか?」困惑しながら言う先輩だったが、嫌じゃなかった事が分かったからか、心配の色は消えていた。
「いや、多分これから嫌な事が起こるんだと思います」
俺がそういうと、いまいち状況が理解できていない先輩はとりあえず「そうですか」と控えめに言って、車を発進させた。

洛南には先輩が宣言した通りの時間で到着した。
「遅かったな」と笑いながら言う上司に柿谷さんは少し苛立ちを覚えたようで「時間通りです」ときっぱり答えていた。
上司の運転は人柄を象徴するように荒かった。そのせいで、ナビが表示した時刻よりも3分ほど早く京都駅に着いた。
「ごめんな!迷惑かけたわ!」
あっけらかんとした口調に腹が立ったが、俺の代わりに「本当ですよ。2度とないようにお願いします」と先輩が言ってくれた。
車から降りるとペトリコールの匂いがした。さっきまで雨が降っていたのか、この場所独特の匂いなのかは分からなかったが、その匂いすらも今から何かが起きると言っているような気がした。
日曜の駅前はいろんな人で賑わっていた。会社帰りの人、スカートの短い人、腕を組んで歩いているカップル。たくさんの荷物を謎のカートに入れて歩いている人。京都駅前はいつもこんな感じなんだろうか。
改札に着くと「それでは茨城(いば)さん、またどこかの現場で」と先輩が言った。帰り際の先輩はいつも少しだけ元気に見えた。改札を通って人混みの中に消えていく先輩を見送って、俺は一度大きく深呼吸をした。振り返ると、京都タワーが見えた。

“蝋燭みたいでしょ?”

貴女の声が、脳内で再生された。
俺はそれに、本当だ。蝋燭みたいだね。と呟いた。
本来であればまっすぐ帰って熱いシャワーを浴びてすぐにでも寝たかった。連勤のせいで体に限界がきていることは既に理解していたが、体は帰ろうとしていなかった。
展望台に行こう。車で京都駅にいくことになってからずっと決めていた。きっと、貴女がいる。俺はなぜかそう思った。

展望台に向かうエスカレーターにはたくさんの人が乗っている。空いている瞬間を見た事がない。
大半は大学生だ。今を謳歌の香りが視認できるほど、彼らは充実しているように見えた。
1つ目のエスカレーターを登る。ここには小さなスペースがあって、花壇には木と花が植えられていて、2つの照明がきを照らしている。その前には腰掛けのない木製のベンチが均等に並んでいて、そのうちの一つにカップルが座っていた。

“ここはな、あのスペースじゃなくて向こうのガラス板から見える京都タワーがいいんよ”
貴女の声が脳内で再生された。
「本当だ。ガラス板が額縁みたいになってていいね」
“え、分かる。めっちゃええやん”
そういって意地悪そうに笑う貴女まで再現された。

2つ目のエスカレーターを登ると、大階段があって、そこには数千のLEDがドット状に光るようになっていて、色を変えたり、消灯する場所をコントロールすることで多種多様な模様を作り出せる。点滅速度を早めれば映像にもなるし、絵画のようにもできる。
俺が登った時には「おいでやす」の文字が浮かび、綺麗に輝いていた。
春夏秋冬で表示は変わり、一部の月には有名なデートスポットにもなる。

“すごない?よく真ん中ぐらいでポーズして、下から撮ってもらってたんよ”

また、貴女の声が脳内で再生された。
「俺とも一緒に撮ろう」
“そやね、絶対撮ろう”
そこで撮った写真は今でも部屋に飾ってある。

3つ目、4つ目とエスカレーターを登って、展望台にきた。
“ここに一緒にきたかったんよ”
記憶の中の貴女はそういって、繋いでいた手をより強く握った。俺もそれに応えるように握り返した。
展望台は中央に正方形の小さな池がある広場になっている。広場には等間隔に並んだ正方形の花壇があり、数本の竹とススキがライトアップされている。黒いフレームとガラス板からは、京都の街が一望できるようになっている。昼に来ても夜に来ても人工的な景観美を味わえる空間になっている。
俺はゆっくりと展望台を歩いた。ライトアップされた花壇に併設された背もたれのない木のベンチは、カップルや待ち合わせをしているであろう人で全て埋まっていた。
ガラス板の近くにもたくさんのカップルがいた。あの時も今と同じような景色だった。
気がつくと、一枚のガラス板の前にいた。ここからの景色が1番綺麗なはずなのに、誰もこのガラス板の前には立たっていなかった。恐らく、サプライズや告白をする人たち専用のスペースとして使う暗黙の了解があるのだろう。周囲からの目線が少しだけ気になった。
でも、俺には揺るがない確信があった。仕事の帰りに偶然京都駅に来た事。ここに誰もいない事。今日があの日と同じ新月だという事。

「凄いね。これが運命じゃないなら、私はもう運命を信じることはできんわ」
「俺もそう思うよ」
京都の夜景を纏ったガラスに、貴女が映っている。
振り返った俺たちは微笑みあった。

「久しぶりやね」
彼女が言った。肩まである長い黒髪は均等にカールしていて、右側で分け目が作られている。眉、まつ毛、瞼、瞳、涙袋、鼻筋、口、顎。あまりに整った顔から放たれる微笑みは、今日この時のために生きてきたんだと思わせてくれる魔法がかかっている。
「不思議だ。こうなるだろうと思ってた。この場所に来れば、君に会えるって」
彼女は小さく頷いて、俺の横までゆっくりと歩いてきた。
彼女が横になるのと同時に俺も夜景の方を見た。
「本当に不思議。うちもそんな気がしててん」
彼女の細い指が俺の指に触れる。ゆっくりと一本ずつ確かめ合うように、指を絡めた。
どれくらいの間そうしていたんだろう。数秒なのか数時間なのか、永遠と一瞬の狭間にあった沈黙を破ったのは彼女だった。

「ごめんね」

囁くように言った後、それよりもさらに小さな声でもう一度ごめんねと言った。
俺は首を横に振って、言った。

「いいんだよ」

彼女と同じように囁くように言った後、頭を撫でながら夜景に映った俺と彼女に向けて微笑んだ。まるで映画を見ているかのような感覚だった。
その風景を名残惜しむように彼女の方に顔を向けた。彼女も同じように顔をこちらに向けていた。
彼女が目を閉じて微笑む。俺も同じように微笑んで、キスをした。

Reload

話は数ヶ月前に遡る。
結論から言うと、俺と彼女は出会うべきじゃなかったんだ。

思春期を迎えてから、俺は愛に飢えていた。愛されたい。とにかく愛されたい。常にそんな事を考えていた。
大人になってからは趣味の音楽を拡大して、それを悪用する形の恋愛をしていた。自分の歌が好きだと言ってくれる子は、性の対象にもってこいだったからだ。性愛こそが最大の愛情表現だとあの頃は思っていた。
彼女は、そんな俺のライブをよく見にきてくれるファンだった。

「お疲れ様ー!今日もよかったで!」
ライブ終わりの物販で、いつものように彼女が言った。
いつもと少し違ったのは、彼女が1番最後のお客さんだった事、俺以外のメンバーがトイレや片付けでいなかった事だ。
「いつもありがとう。本当に俺は幸せもんだよ。こんなに綺麗な人から歌が好きだって言ってもらえるんだから」
「なにそれ。口説いてるん?」彼女はそう言って上目遣いで俺を見た。
「当たり前だ。こんな綺麗な人と2人で話してるのに口説かないのはバンドマンとしてあるまじき行為だと思う」
俺の言葉に彼女は笑った。
「ほんま、おもろい人。そうやってみんなに言って、悪いことしてきたんやろ」
悪い顔で笑いながら彼女が言った。表情が豊かな人だなぁと思った。
「そんなわけない。貴女だけに言ってる」
俺も同じように笑いながら言った。
「もうー。ほんまはこんな事思わへんし、せぇへんのやけど…」
早口にそう言いながら、机の上にあったマジックペンで、メモ用紙に自分の番号を書いた。
「これ、登録したらLINEとか出てくるからよろしく!」
元気よく彼女は言ったが、俺は敢えて受け取らなかった。
え、なんで?と困った顔をする彼女の顔を見ながら、俺も同じようにメモ用紙に自分の番号を書いた。
「俺から渡したかったから、交換しよ」
自分で言ってて恥ずかしくなったが、そういうことがしたかった。彼女には、こういう自分がいる事を許してもらえるような気がした。
「やっぱりあんた、おもろいな」
そう言って微笑んだ彼女の顔を見て、そうだよなと思った。
それが俺たちの出会い。

それから週一でデートをした。基本的にはチェーンの居酒屋で、好きな酒とつまみを永遠と煽っていた。そしてベロベロに酔っ払った後、手を繋いで夜風に吹かれながら散歩した。そんなことをしているもんだからいつも家に帰ると言いながら2人で近くのホテルに泊まった。基本的にはビジネスホテルだったけど、そんなのお構いなしにお互いを求め合った。

そんな日々が3ヶ月を迎えた頃だった。
『話があるから、いつものとこに来てほしい』
電話口でそう言われた。いつものとこを考えてみる。何件か候補があがったが、気分的にここかと思った場所に向かった。
そういえば時間を聞いてないなぁと思った矢先、店の入り口の前に立っている彼女が俺に向けて手を振った。
「いらっしゃいませ!2名様ですね?」店に入って声をかけてくれたのはいつも接客してくれる店員だった。週7で入ってるんじゃないかと思うほどの頻度で彼と遭遇する。
案内されたのはいつもの席だった。窓からほんのりと夜景が見える場所だ。俺も彼女もここが気に入っている。
彼女は席に着くなり、窓の外をじっくりと見つめた。どこまでも真っ黒い空は、今にも街を飲み込んでしまいそうだった。
「何を見てるの?」俺の言葉に、彼女は微塵も動かなかった。聞こえなかったのかと思ったが、夜空を見つめながら
「何を見てるんか私も分からへん。それぐらい真っ黒やな」そう言って笑った。今俺が見ているこの風景は、どんな言葉で表せばいいんだろう。そんな事を思いながら彼女の笑顔をずっと見ていた。
ややあって「いつものでいいですか?」とさっきの店員が笑顔で言った。俺たちはその言葉に頷いた。
数分後には生が2つと、適当な肴と摘が置かれた。数枚の写真を撮って、たわいもない会話をしながら、ゆっくりと嗜んだ。
「あんな…」
4杯目の酒を飲み干して彼女が言った。頬の赤みを見る限りいい感じに酔っている。かく言う俺も視界がいい感じに揺らいでいる。
「私な、好きな人がおんねん」
一瞬、時間が止まった………ような気がした。あくまで気がしただけだった。…なぜだろう。少しぐらいは感情に変化があってもいいはずだけど、特に何もなかった。
「…驚いた?」
「……うん。驚いてると思ったけど、何故か驚いてないな」本心だ。
「……じゃあ、嫌いなった?」
声のトーンが下がった。彼女は今にも泣き出しそうな顔で俺を見ていた。
「……もし仮にさ」心を整理しながら言った。「立場が逆だったして、俺の事嫌いになる?」
涙目の彼女は俺の言葉をじっくりと吟味した上で、首を横に振った。
そうだね。と俺は呟いて、言った。「同じ気持ちだよ」
彼女は黙って席を立って、俺の隣に来て泣いた。彼女の涙で肩がだんだんと濡れていくのが分かった。
俺も彼女もしばらく話さなかった。居酒屋の喧騒の中で、気が済むまでそうしていた。

それからしばらく、割り切った関係が続いた。表では好きな人がいる女の子とそれを応援する男だが、裏ではお互いに体を交え、愛を囁き合っていた。
もちろん、そんな関係が長く続くわけはない。終わりはある日突然やってきた。

『この関係を終わりにしたい』
突然のメッセージだった。
俺はしばらくその文字だけを眺めて、ぼんやりと考え事をしていた。何を考えていたかは覚えていない。もしかするとただ思考が停止していただけかもしれない。とりあえずそれなりの時間文字を眺めていた。
『何かあった?』
何を返したらいいか分からず、とりあえずそう送った。
『心が耐えられんくなってきた…』
3回程読んでスマホをベッドに投げた。目を閉じて、眉間を数回揉んだ。
それからしばらくは連絡を返さなかった。毎日連絡を取り合っていたせいか、会いた時間があると落ち着かなかった。生まれて初めて心に穴が空いたような感覚を味わった気がする。なんて弱い人間なんだろうと思う。
『それでも会いたい』
返信できたのは3日後だった。その間、何を考えていたのか、何をしていたのかあまり覚えていない。しばらく返事は来ないだろうと思ったが、3時間後にはきていた。
『私も』
そうだとは、思った。
『少し話さない?』
送信ボタンを押すのにしばらく時間がかかった。数秒後、電話がなった。
『……』
出たはいいが、何も話せなかった。そのままお互いに話せない時間が数分続いた。
『元気?』先に口を開いたのは彼女だった。
『元気だよ』
『よかった』電話越しでも彼女が微笑んだのが分かった。
『……』それからまた数分の沈黙が流れる。
『俺はこれからも会いたいよ』
『・・・私は───』
彼女が言葉を聞く前に電話が切れた。驚いて画面を確認すると、充電が切れていた。急いで充電をして、3分後に電源がついた。
急いで電話をかける。1コール、2コール、3コール、4コール、5コール、6コール、7コール、8コール、9コール。
そこまでで電話を切った。それっきり、俺は彼女に連絡するのをやめた。

Pint

久しぶりのキスは、ハイボールの味がした。
「相変わらずハイボールばっかり飲んでるだね」笑いながら言った。
「え!?変な味した!?」焦りながら彼女がいう。
「いや、懐かしい味がした」
「もう!」と言いながら肩を叩かれた。このやりとりすら懐かしい。
「元気だった?」そう言いながら改めて彼女を見た。本当に存在している事を確かめるように絡めた手をより強く握った。もちろん彼女もそれに応える。
「元気じゃなったわ…」夜景を見ながら貴女が言った。
「奇遇だね。俺も元気じゃなかったよ」
「…ごめん」俯きながら、さっきよりも小さい声で囁いた。
「もう、謝らないでいいよ」そう言いながら目線を夜景に戻した。

「仕事は?」「順調やで。そっちは?」「順調だよ」「よかった」「晩酌は?」「もちろんしてる。やってな生きていかれへん」
「間違いない。俺も欠かさずやってる」「相変わらず梅酒ばっかり呑んでんちゃう?」「それがさ、聞いてよ」「何よ」「最近は赤玉パンチも飲んでるよ」「私が教えたやつやん!うまいやろ?」「うん、死ぬほどうまい。正直ハマった」「ほらなー。絶対好きになるっていうたやん」「外れた事ないもんね」「せやで。なんでもわかんねん」

「またお局の話やねんけどさ」「また?いつでもやらかしてるね」「それがな、ちゃうよ。今日はええ話やねん」「今日は」「そう。今日は」「何があったん」「あったんって、私の移ってるやん」「ね、恥ずかしい。やられたよ」「そんでな、お局の話やねんけどさ」

「好きな食べ物がお寿司に変わったんよ」「そうなんだ。俺は今だにお寿司が1番だよ」「せやからお寿司好きになったんよ」

「夜ずっと電話してたら眠れてたけどさ、それがなくなるだけでこんなに眠れなくなるもんだね」「ほんまやで。お互いクマが酷すぎるわ。パンダになってもうてる」「チンチンとアンアンみたいだね」「もうっ。変な名前で笑わせんとって」

「ずっとこうしたかってん」「そうだね。俺もこうしてたかったよ」「夢にまで見たんよ」「俺も何回も見たよ」

「………」「………」

「あとどれくらいこうしてられるかな」「分かんない。時間なんてもう気にしてないよ。今はこの夢が覚めない事を祈ってるだけだ」「そやなぁ…」

彼女の声が震えているのが分かった。それと同時に、彼女が俺の肩から顔を上げた。目を開けると、視界がキラキラと輝いていた。夜景がダイヤのように輝いている。瞬きと共に、彼女の目から一筋の光が溢れて、頬を伝った。その感覚が自分の頬にもあった。瞬きをすると同じ箇所を涙が伝った。

何も言わなくても分かってたんだ。この1回は始まりの1回ではなく、終わりの1回なんだ。彼女も俺もそれが分かっていた。
偶然京都に行くことになったこと、展望台へのエスカレーターで彼女の記憶を追ったこと、この場所に誰1人としていなかったこと、彼女が来たこと、恋人繋ぎをしたこと、キスをした事、それら全てが終わりに向けた助走だったんだ。
夢はいつか覚めてしまう。刻一刻とすぎていく時間に、俺たちの体は抗えない。
まるで何者かに操られているかのように、彼女が立ち上がった。少し遅れて、俺も立ち上がる。
その時、終電10分前を知らせるアナウンスが鳴った。

「さよならやね」

囁くように言った後、それよりもさらに小さな声でもう一度さよならと言った。
俺は首を縦に振って、言った。

「さよなら」

彼女と同じように囁くように言った後、頭を撫でていた手を肩に置いて見つめあった。
彼女が目を閉じる。大粒の涙が頬を伝い、地面に落ちた。それと同時にそっと彼女にキスをした。

“ありがとう、さよなら”

振り返って、彼女が歩き出す。俺はその場から動かず、彼女がエスカレーターに乗るまで目線を彼女から離さなかった。
完全に彼女が消えて数分後、電車の発射音が聞こえた。
俺は糸が切れたようにその場に崩れ落ちる。もうすぐ警備員が巡回に来るだろうが、知ったことではなかった。
涙でぼやけた視界を袖で拭う。真正面には漆黒の夜空があり、見つめているとそこに吸い込まれそうだった。
しばらくそんな事を考えていると、エスカレーターの駆動音が止んだ。
目を閉じて、深く息を吸い込む。この夢が覚めませんようにと漆黒の空に祈りを捧げて、俺は眠りについた。

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たった数ヶ月の秘密の関係

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-03

Public Domain
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