十月の罪

 せかい、という言葉を、ひどく大仰に感じて、スマホの画面のうえで、指がさまよってる。かんたんに、世界、に変換できてしまうことへの忍びなさ、的な、常日頃、何気なくつかっているものがときどき、正体がわからなくなって、戸惑う、みたいな。ふとした瞬間にあらわれる、ちいさな不安を摘み取るように、わたしの肌に吸いついて、甘く噛んでくれればいいのにと思う。快晴の、日曜日の十四時。昼寝をする、せんせいのかたわらで、目的なくスマホを持ったまま、フリーズしている、わたしと、パソコンから流れてくる、無益でしかないけれど、時間をつぶすのにちょうどいい、だれかのネット動画の音は、いつまでも調和せず。
 せんせいの部屋のなかで、まるで、わたしだけが、異物。
 そういうよそよそしさを、よく晴れた空が、心地よくそよぐ風が、なびくレースカーテンが、ベッドのほどよいかたさが、シーツのつめたさが、せんせいのおだやかな寝息が、たたえている気がして、夜に浸したように真っ黒に染まった画面を、わたしは意味もなく見つめている。

十月の罪

十月の罪

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-02

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