酔いどれ列車

私は不感な河を下って行ったのだが(…)
     ──アルチュール・ランボオ「酔いどれ船」

 1
寝台列車は薔薇と金でいっぱい、
噎せかえるようなglamorous等は束になり
花と斃れる如く酔いどれどもは織重なって、
快楽の儘に吸い吐きし、薔薇ともみくちゃに戯れる。

まるで空で棚引くけらくのいきれ、
内奥の湿る深淵から吐く水気に従順な者どもだ、
薔薇を掻き分け新たな悦楽さがしては、
金に濡れ、だらしのない豪奢な顔をやつれさせる。

寝台列車は急行で、死と破滅へ──
decadenceに奇奇怪怪なうごきで向かう予定です、
有限の時間をありあまる快楽で埋める遊び人は、
至極真剣 無為に徒に時過ごす、何時や死んでも好いように。

けたたましい笑い声、舞い散る絢爛な金、豪壮な薔薇、
幾重の糸の引き攣り揺れうつろうが如く蠢く酔いどれども、
其処で不断に鳴るのは鎮魂歌、モオツァルトの涙の日、
──扨て、音忽然と吊られました、引き攣る音は断末魔です。

 2
はい 酔いどれどもを曳伴れた、
薔薇と金の快楽でいっぱいな寝台列車は、
その薔薇の体臭吐く尻を、銀に燦るクレーンに掴まれ、
ひねられ吊られ、地に叩きつけられ毀れて了った。

glamorousとdecadence、古代羅馬の時代より
永遠の恋人であるらしく、まるで双方の心中で、
それ愛し合う時点で始まっていた、死ぬ気の恋でありました、
愛の純化に恋愛はなく、恋愛の純化は死でありました。

恋愛の純化は死でありました? はい、おそらくそうであります。
虚栄と生活と幸福諸共様々剥いで、恋愛へ向う恋に酔ってる神殿列車、
不幸と孤立 密室にむっと立ち込めて、しゃんと銀の衣擦れ曳きながら、
まるで地獄へ堕ちて往きます──恐らくや、恋愛の純化は死でありました。

わたし かの酔いどれ列車からの唯一の生存者、
背に負うのは雪の衣装、身の片側に死を背負い、恋人は不在、
曳きずるズタ袋にはわが死骸の幻影を容れ、嘗ての音楽口ずさむ、
涙の日を歌います──恋愛禁止の(わたし)、気付くと恋愛の極に在りました。

 3
肉欲の、儘に、うごきましょう、
撥ねる、硝子を、叩くが、如く、
さながらに、glamorousに、decadenceに、
乱痴気、騒ぎと、舞踊(おど)りましょう。

扨て、月の光、が、照りました、
無へ、剥きもした、雪の衣装は、
銀の鱗と、わが身縛り、撥ねるうごきを、制約す、
然れば、ひらひら、月の光に、舞踏(おど)られましょう──花ぢゃ、我。

酔いどれ列車

酔いどれ列車

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-27

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