騎士物語 第十一話 ~神の国~ 第六章 各々のかいえんごと

RANPO

混沌と化した神の国で、各々の思惑によって巡り合う敵と味方。
割と何も知らない十二騎士の現状確認と、今回一番迷惑を被った人のお話です。

第六章 各々のかいえんごと

 世界で一番強くなりたい。騎士でも何でも、強さに憧れた子供が抱くような壮大な夢を、しかして大人になっても抱き続けて強くなり続けている者も多いそんな願いを、その少年も持っていた。
 強くなる為には何をしなければならないか。真っ先に思い浮かんだ事は自身を鍛えること。一先ず強い人たちの代表である騎士を目指して鍛錬を積んでいった少年は順調に強くなっていき、そして多くの者がぶつかる壁にその足を止めた。
 これ以上強くなるには今の方法ではダメだという感覚。この先に進むには普通ではない何かが必要だという確信。それはかつてない危機だったり思いもよらない出会いだったりと形は様々だが、勇者や英雄の周りにはこれでもかと降って来るそのキッカケが、少年から青年となっていた彼には訪れる様子が無かった。
 いつ来るのか、そもそも一生来ないのか、そんな先の不明確なモノに頼っていてはいけないと考えた彼は、世界で一番強くなる為の方法を――世界最強への道筋を再考する。
 先ほど挙がった勇者や英雄だが、そういう者たちにはキッカケの他に特殊な武器やら能力やらが付随している事が多い。強力な魔眼、伝説の武具、そういうモノを手に入れれば更に上の強さが手に入るだろうと彼は考えたが、そこでふと気づく。
 それらを手に入れる方法はそれなりにある。正規の方法とは言えないが魔眼の移植技術はどこかにあるという噂だし、装備なんて奪えばいい。だがそれをやったとして、果たして世界最強になれるのだろうか。
 実際、十二騎士やS級犯罪者は最強クラスの戦闘能力を持つとされているが真に世界最強の一人が誰かという問いに対しては人それぞれの答えが返って来る。つまり現状、「世界最強」というモノは存在しておらず、先の方法――最強クラスの面々のマネをするという方法では上位に食い込むだけで頂点には到達できない可能性が高いのだ。
 根本的にやり方を変えなければならない。まだ誰も見つけていない道筋を見つけなければ世界最強にはなれない。そう考えた彼は、最初に今の最強クラスの面々が世界最強になれていない理由から調べ始めた。
 強力な魔眼、伝説の武具、S級犯罪者たちの飛び抜けた発想から来る異色の魔法。どれもこれも凄いのだがその凄さはある一定の範囲内の話であり、要するに全てにおいて弱点というモノが存在する。弱い点などというモノがあるのだから世界最強とは呼べないわけだが、逆に言えばそれが無ければ世界最強に近いのではないか。それを克服するにはどうすればいいのか、そもそもどうしてそんな弱点が存在しているのか、彼は調べ続けた。
 ただ、ここで注意しなければならないのは彼自身のこと。ある程度の強さを持った騎士には至っているが「まあまあ強い騎士」という表現がしっくりくるだろうレベルであり、ならば凄まじい頭脳の持ち主かというとそうでもない。ごくごく平凡な人物が相応の強さを得ているだけ――それが彼である。
 故に、調べると言ってもそれは本屋にあるような書物から得られる情報に由来し、そこからの考察も既に多くの者が至っている結論。結局のところ、彼が行きついたのは仮に大々的に発表しても「そうだね」と言われる程度のモノであった。
 それは、詰まる所強靭な身体があればいいという考え方。物理的にも精神的にも、何をされようと問題のない身体があれば街を消し飛ばすような火力は必要なく、そういうモノを出力する個人なり装置なりのところへ歩いて行って殴って殺すなり壊すなりすればいい。
 ずば抜けた防御力を自慢とする騎士や悪党はそれなりにいるが、多くは特殊な魔法や道具に由来するモノであって特定の条件下ではただの人。何もしていなくても常に無敵の身体――それこそが世界最強たる人物であると、彼は結論付けた。

 多種多様な能力も原始的な強さの前では無力。これを掲げて肉体を鍛え上げる者は多く、ならば彼も筋肉を重ねる事に心血を注ぐかと思われたが、強いて言うならばこの一点――世界最強に対する淡々とした思考のみが普通よりも深く、真っすぐだった彼はそういう道には進まなかった。

 害する事のできない身体とはどういうモノか。少なくともそれは人間の身体ではないと彼は考えた。鎧のような筋肉やあらゆるモノを受け流すしなやかな肉体というのはあるが、実際に鋼のような硬さの筋肉などあるわけがなく、しなやかさなどプレス機にでも挟めば潰せてしまう。そう、何をどう考えても人間の身体を構成する物質ではまず、金属――機械には勝てないのである。
 金属の国と呼ばれている、世界で最も科学技術が進んでいる国――ガルドには多様な機械が存在している。魔法が普及している国で例えるならばゴーレムが近く、つまり使用者の命令に従って特定の作業を代行する存在である。それらはその作業に特化した形状をしており、代行ではあるが使用者自身が行うよりも良い結果を出す場合が多い。
 そしてその形状――外見が装置ではなく何かしらの生き物や人間のそれを模している場合、その機械はロボットと呼称される。技術者に言わせればただの機械とロボットの間には多くの違いがあるが彼に専門的な理解は必要なく、ロボットのような金属の身体こそがまず、人間が世界最強になる為の第一歩であるという結論こそが重要だった。
 人間社会で活動させる為に人間の形をしているロボットというのは多く、中には本物の人間と見分けがつかないモノもある。そしてきっと、そういうロボットを作る者の中には自分と同じように強さを求めた者もいたはずで、世界最強に近づいたロボットがいなかったのかと、彼は歴史を調べ始めた。
 そして彼はロボットの歴史の奇妙な点を知る。今存在しているロボットは勿論、機械も含めた様々な技術はある一人の天才が作った無数の人形に由来しているというのだ。
 それが誰なのか名前も何も残っていないのだが、遥か昔、今でさえオーバーテクノロジーだと言える技術力で生み出された何体もの人形。壊れているのか失敗したのか、動きはしないが現在の科学技術の基礎が全て詰まっていると言っていいほどのモノが、まるでゴミのようにある場所に捨てられていたのだ。
 それを見つけた当時の、今からすれば学生以下の知識しかない学者たちがそれらを回収し、調査し、そこから発見された無数の技術によって発展したのが今のガルドという国なのだという。
 そして、そんな宝の山をゴミとして捨てていたその天才がついに作り上げた動く人形――歴史上最初で恐らく最高のロボットについての記録は、学者や技術者からすればあまりに荒唐無稽な内容で真偽は怪しいが、彼が目指す強靭な身体そのものだった。

 曰く、それは人の形で人の大きさだが片腕で山を持ち上げ、粉砕した。
 曰く、それは空を飛び、海中を駆け、溶岩の中を闊歩した。
 曰く、それは全てを吹き飛ばす大嵐も一帯を焦土と化す無数の雷もそよ風と小雨として受けた。
 曰く、それが内なる力を解き放った時、そこには何も残らなかった。

 あらゆるモノをものともしない無敵さに圧倒的な火力を併せ持つ究極の身体。今はいないのか、今でもどこかにいるのか、世界最強の称号を得るとしたらこのロボットだと、彼は遂に見つけた頂点に立つ存在に感動した。
 目指すべきモノが明確となり、彼の世界最強への道筋はこのロボットのような機械の身体を得る事と決まった。

 そして、夢に向かって真っすぐだった想いに目標が加わった結果、彼に尋常ではない行動力をもたらした。

 まず彼は機械に関して全くの無知であった。かと言って今から勉強したのではやりたい研究ができるようになるまでどれほどの時間がかかるかわかったものではない。
 だから彼は、既に知識を持っている者からそれをもらう事にした。
 他人の頭の中を覗き見る魔法は存在しているのだから、他人の知識を自分のモノにする魔法くらいあるだろうとざっくり考えた彼は、それができそうな者と欲しい知識を持っている者を適当に見つけてさらった。
 彼の実力はそれほど高くないが、彼は目的の為に手段を選ばなかった。とにかく早く知識が欲しかった彼は両者の家族や関係者をとりあえず一人殺し、死体の横で次は誰々と言って二人を脅したのだ。
 他人の知識を移植するなんてできるわけがないと言った魔法使いの子供の腕を切り落とし、いいからやれと言った彼を二人が平凡な騎士と見るわけもなく、成功確率以前に可能かどうかもわからない、無謀な実験に近いそれが行われた結果――悪魔のいたずらと言うべきか、それは成功してしまった。
 欲しかった知識が長年培ったモノのように頭の中にある感覚に満足した彼は、後々面倒になる証拠を残すわけにはいかないと、強制的に頭をいじられて廃人となった技術者と魔法使い、人質とした関係者らを皆殺しにした。
 そして計画など無いに等しいずさんな犯罪だったが一切のためらいなく迅速に行われたそれが騎士に発覚した頃には、彼は移植する為の魔法に関する知識を自身に移植した後、二人目の技術者から知識を奪っていた。
 こうして一時期技術者や研究者を震え上がらせた通り魔のような犯罪が十数件行われた後、彼はようやくやりたい研究――世界最強になる為に身体の研究を始めた。
 他人から知識を奪った影響か、実のところ彼の口調や身振り手振りは平凡な騎士だった頃と比較すると完全に別人となっていたのだが目指す夢がかすむ事はなく、本当に最初の頃の彼なのかどうかはもはや不明だか、数を重ねる事に警戒を増して配置されるようになっていった護衛の騎士などをあっさりとすり抜ける知能さえも得ていた。
 知識を奪う時同様、夢の道を駆け足で進む彼はあらゆる実験をまず自分の身体に施した。あまりに無謀極まるやり方なのだが、十数人分の知識――それもとりあえず有名な技術者や研究者なら間違いないだろうとその道の第一人者と呼べるような人物たちから知識を奪い、同時に知能も高めた彼の実験は成功率が極めて高く、結果として科学技術を扱う者としては最高峰の頭脳を得ている彼の研究は順調に進んでいった。
 そんなある時、都合上自身を実験に使う事ができない案件がいくつか出てきた。自分の身体を真っ先の実験台にしたい彼としては渋々だったが、彼は別の実験台を用意する事にした。
 通りすがりの人間から適当に選んだのだが、技術者を襲った時とは違ってその場で始末せずに経過観察の為に実験台は数日間自分の下に置いておく必要があり、これが影響して誘拐犯が彼であることや研究所の場所などが何度か騎士にバレてしまった。
 既に世界最強とは行かないまでもある程度は強力な機械の身体を持っていた彼が捕まる事はなかったが、騎士が介入する度に研究が止まるのは面倒とし、彼は実験台の用意の仕方――いや、他人を使う場合の実験のやり方をきちんと考えた。
 初めは研究所とは別に経過観察用の施設を作ったりしたのだが結局その施設が騎士にバレたりし、泣く泣く、彼は実験台から身体の各部の情報を彼の研究所へ自動で送信させる装置を作り、それを実験台の身体へと埋め込むようにした。これによって適当に選んだ人間にその場で実験を行い、あとは放っておくだけでデータが集まるようになり、騎士に見つかるリスクもさらう際の痕跡を追われて研究所を突き止められる可能性もグッと低くなった。
 ただ、彼のこのやり方は傍から見れば人を無差別に機械化し、これまでの生活を送れなくする上に最悪失敗して死に至らしめるという悪魔の所業であり、彼が捕まる事はなくとも実験台に彼のことを見られている事もあってその悪名は瞬く間に広がっていった。
 そうして、おそらく実験の最中に彼がこぼした彼の夢――非道な行いの目的が騎士たちの知るところとなり、「最強の人間を作る為に無差別に人体実験をして人を機械化していく男」という凶悪犯罪者が出来上がった。
 人が人を作るという点からか、どこかの誰かが彼を『フランケン』と呼び、数は少ないが騎士との戦闘記録からその戦闘能力の高さが知れ渡り、『フランケン』はS級犯罪者に名を連ねる最凶最悪のマッドサイエンティストの一人となった。

 十二騎士クラスの騎士からも追われるようになり、これが別のマッドサイエンティスト――『ディザスター』であったなら強い騎士が訪ねてくることは良いサンプルが勝手にやってくる事だと喜ぶところだが、彼の研究の場合実験台に使った人間の強さに興味はなく、平凡な騎士だった彼が最強になれる方法として機械の身体を研究しているので強い騎士の襲来などは迷惑でしかなく、彼は身を隠すことに注力するようになっていった。
 そうして最終的に辿り着いたのが宗教大国、神の国アタエルカ。商人たちから世界一面倒な国と呼ばれるその在り方は国外の騎士にも当てはまり、地区を跨ぐ際に手間のかかる手続きを必要とするこの国は悪人の捜索という事が非常にしづらい。それでも治安が保たれているのは国内に十二騎士の一人や白の騎士団がいるからだが、どんな能力を持った騎士がいつやってくるかという状況よりも、強いが能力は明らかな上にどこにいるのかもわかっている状況の方が扱いやすく、彼は科学技術を信仰する第二地区で研究にいそしむ一人の技術者として潜伏した。

 つまり、彼がアタエルカにやってきたのはたまたま良い環境だったからなのだが、まさに神の導きか、そこで彼は自身の研究に不可欠だったモノがこの国に眠っている事を知る。

 全ての生き物がそうであるように、機械でなくとも何かが動くにはエネルギーが必要となる。食べ物でも電気でも、どのような形であれエネルギーの供給がなければ物体は何もなせない。世界最強の身体を作り上げたとしても、定期的にエネルギー補給を必要とするのであればそれはもう弱点であり、彼の目指す世界最強ではなくなってしまうのだ。
 無尽蔵にエネルギーを生み出す物体や仕組み、機械に関する研究は魔法を中心に多くの研究者が行って来た事ではあるが、実現させた者はいない。だがアタエルカには「神の国」と呼ばれる理由になったモノ――神の光が存在していた。
 どこから降り注いでいるのか未だに謎なその光は、記録上途切れた事がない。魔法生物を寄せ付けず、魔法の効果を上げるという力はまさに神の恩恵だが科学者からすれば尽きることなく降り注ぐ無限のエネルギー。彼が所属する第二地区は当然これを研究対象としていた。
 だがその研究は彼がやってきた頃には既に終わっていた。全てが解明されたという意味ではなく、エネルギーとしての利用などは実現できたが結局この光が何なのか誰にもわからず、「打ち切り」という形で現在は誰も神の光の研究を行っていなかったのだ。
 研究者がそろいもそろって諦めたという事に驚いたが、彼も光そのものにはそれほど興味がなく、エネルギー源として使えるかどうかという点にのみ興味が向いていた。
 終わった研究という事で長い間誰も来ていないのだろう、神の光に関する研究資料が保管されたほこりまみれの部屋で片っ端からそれを読み漁った彼は、神の国が出来上がる前にこの地である実験を行っていた魔法使いが残した資料に辿り着き、彼は『聖剣』の存在を知った。
 それは神の光を内部にため込む魔法がかけられた一振りの剣で、内包した光が多ければ多いほど出力される力が増すという性質を持っていた。それは例えるならコップ一杯の水を容器に入れたらバケツ一杯分の水が出てきたというようなモノであり、出てきた水を再度容器に入れれば水が無限に出てくるという事――即ち無限のエネルギーに繋がる可能性のある代物だった。
 既に貯蔵できる限界まで光をため込んでいる『聖剣』はあまりに危険という事で封印されたが、当然過去の研究者らは同じようなモノを作れないかと試みた。しかしあの剣の形状が絶妙だったのか、あれを作った魔法使いが特殊な能力を持っていたのか、それこそ奇跡の産物故なのか、同じ性質を持った物は誰にも作れなかった。
 しかし作れなくとも問題はない。何故なら『聖剣』が既にあるのだからそれを使えばいい。問題はコップ一杯の水のように出てきたエネルギーを再度剣に入力する事ができるかどうかという点だが、エネルギーを増幅させるという時点で『聖剣』は世界最強の身体を実現させる為の鍵。彼はこれを手に入れる方法を考えた。
 資料から『聖剣』が各地区の代表が協力して行った魔法によって封印されている事がわかったが、その解除方法に関して彼が得られた情報――第二地区に残されていたモノは断片的だった。十二人の代表者がそれぞれに情報を分割して管理するようにしたらしく、封印の全容を知るには各地区から資料を集める必要があった。
 そこで彼は各地区に所謂スパイを送り込む事にした。研究の過程である程度の魔法技術は持っていたがあくまで世界最強の身体につながるような専門的なモノばかりで他人を支配するような魔法は彼には使えないが、他人を操るのに魔法技術は必須ではない。彼は彼の命令通りに動くように適当な人間を改造して各地区に送り込み、『聖剣』の封印に関する情報を集め始めた。
 様々な工作によってスパイたちをそれぞれの地区で情報を得る為に必要な地位や立場にし、各地区に残された情報を集めた結果、封印の解除には現在の各地区の代表者を集める必要があると判明した。
 それ自体は難しい事ではない。だがどう考えても騒動は免れず、彼の存在が十二騎士や白の騎士団に知られる可能性が非常に高い。『聖剣』を手に入れた後も何かと便利な神の国に潜伏していたい彼は、情報を集める過程で知った第五地区の動向に目を付けた。
 第五地区の代表、フラール・ヴァンフヴィートもまた『聖剣』を狙っており、他の地区を協力させる為にレガリアを探していた。彼女であればレガリアの力で邪魔になる者を制しながら各地区の代表を集めて封印を解除する事ができる――聖騎士隊なども含めて彼女の能力を評価した彼は、この国に集まってくるレガリアの情報が全て第五地区に行くようにし、自身もまた国外へ情報収集の為の改造人間をあちこちへ散らし、その時が来るのを待ち続けた。

 そうして遂に迎えたその時、彼と同じS級犯罪者が二人ほど彼を訪ね、内一人が彼の研究所を滅茶苦茶に破壊した。

「行動を制御して自分と繋いでいたシステムが破壊された今、あいつらはどう動く……その場で倒れるか、一番深いところにインプットした「『聖剣』を手に入れる」って命令でフラールを襲うか……結局外に出てみないとわからないが、何にせよ事が片付いたらあいつらは調べられて自分の存在が明るみになる。そうならないように練った計画が……あの猿共のせいで……!!」
 頭上、天井にぽっかりとあいた穴の向こうから何かが崩れたり爆発したりする音が響く中、何かの機械に片腕を肘の辺りまで挿入した状態で地団駄を踏む人物が怒りのこもった声色でぶつぶつと呟く。それは子供向けのヒーロー番組に登場しそうなスタイリッシュなスーツのような、もしくは洗練されたスマートなアーマーのような、とにかく頭の先からつま先までを覆う銀色の何かをまとったその者――『フランケン』は、表情は見えないが全身からイライラを放ちながら目の前のモノを見上げた。
「既に封印は解除され、『聖剣』はフラールが持っているだろう。あいつらが機能していればもっと簡単に奪えたが、こうなったら力づくで奪うしかない。そして『聖剣』を手にしたフラールの強さは桁外れのはず……となると確実に事を成すにはこれを動かすしかない……クソッ、クソッ! 騎士連中に知られれば絶対に面倒な事になるというのにっ!!」
 シルエットは、例えるなら丸々と太った人間。ずんぐりむっくりした身体で人形のように力なく座っているが、大きさは人間のそれではない。ここに田舎者の青年がいたら火の国の機動鎧装を連想しただろう、所謂大きなロボットであるそれは『フランケン』が機械から腕を引き抜くとうなり声のような音を響かせてゆらりと立ち上がる。
「せめて最大限にデータを収集するとしよう……この、世界最強の塊の。」



「レガリアが持つ力は他者に思考を植え付けるというモノです。」
 神の国、アタエルカをぐるりと囲んでいる壁の近く。我ら『ビックリ箱騎士団』と妹のパムとミラちゃんとユーリを加えた一行にポリアンサさんたち――カペラ女学園の面々が合流した。オレたちが到着した時は絶賛戦闘中だったようなのだが、ポリアンサさんが戦っていた踊り子さんみたいな服の人はミラちゃんの説明……と言っていいのか、言葉に従って戦うのを止めた。そしてラクスさんが戦っていたらしい……なんというか、ウネウネした真っ黒な球体はポリアンサさんがオレたちに驚いている間に倒したようだ。
 一体誰とどういう理由で戦っていたのか、どうしてこんな所に……んまぁ、それはポリアンサさんたちからしたらオレたちに対して思っている事だろうけど、色々と聞きたいことを話す前に、ユーリが解析を終えてレガリアに対抗する魔法をオレたちにかけてくれたところでまず初めにミラちゃんが……割と何の脈絡もなくそう言った。
「思考……!」
 突然の一言にポカンとするラクスさんと……そういえば名前は知らないけれどラクスさんの友達? の女の人たちだったが、ポリアンサさんだけはまるで喉まで出かかっていたのにどうしても出てこなかった単語をようやく思い出せたかのようなハッとした表情になる。
「あなたはそこそこ勘がいいようですね。他の者に説明してあげて下さい。ユーリ、中の状況はわかりますか?」
「ああ……妙な電波が飛び交っている……」
 レガリアの力の解析に加えて中の様子まで探り始めたユーリを横目に、オレはポリアンサさんたちの話を聞いた。
「なんだプリムラ、どうしたんだ?」
「なんてことですか……こんな恐ろしい事が……」
 困惑した顔を向けるラクスさんたちの顔を見て、ポリアンサさんは深刻な表情でこう言った。
「ユズさんが、いません……」
 ユズさん――それが誰の事だったかもオレはちゃんと覚えられていないわけだが、その一言でラクスさんたちはハッとし、互いを見合って信じられないという顔になる。
「は……おいおい、だってさっきまで――い、いやいつまで……いつから……!?」
「どういうことよこれ……あたしたち、ユズを置いて学園に戻ろうとしてたってこと!?」
「アリアさん、レガリアを見せてもらえますか?」
「了解。」
 選挙戦の時にプロキオン騎士学校のヒースが戦っていた、ロボットのアリアさんがポリアンサさんにそう頼まれて服をまくってお腹を――ってうわわ!
「見た目に変化はありませんが……アリアさん、何かおかしな点はありませんか?」
 露わになったお腹がガションと開いて中から金色の卵のようなモノが出てきた。確かミラちゃんが教えてくれた……えぇっと、レガリアだっけか。あれ、でもそれが何でここに……
「この国に運んできた時と違い、微小ながら魔法の気配が漏れ出ているようデス。しかしそれはレガリアの機能を試運転させたせいだとあの教皇が言っていました。」
「……」
 レガリアを受け取ったポリアンサさんは難しい顔でそれを眺めた後、グッと力を入れるように何かの魔法をかけた。するとレガリアの金色が一瞬で土のような茶色になり、まるで粘土で作ったような外見に変化した。
「偽物……ですね。」
「どういう事だプリムラ……俺らはそんなのを運ばされてたのか? 何のために……」
「問題はそこです。各地区の方たちがレガリアを奪おうとやってくる直前、わたくしたちは既に自分たちの行動に疑問を抱いていました。これが偽物で本物がまだ国内にあるとすると、レガリアの力――思考を植え付けるという能力には効果範囲があるという事。わたくしたちはその範囲外に出かかっていたというわけです。そして様々な事に疑問を覚え、何よりユズさんがいないことに気がつき、わたくしたちはアタエルカに戻ったはず……こんな国から大して離れていない場所にわたくしたちを移動させる理由がわかりません。」
「陽動でしょうね。」
 油断するとそこにいる事を忘れそうになる不思議な気配をしている踊り子さんみたいな服の人が粘土のレガリアに困った笑みを向けながらそう言った。
「わたしやあっちに転がっている執行人やロボットがここに来たのはレガリアを手に入れる為。第五地区の教皇が折角回収したレガリアをまた国外に出そうとしているって事でそれを阻止、あわよくば自分の地区のモノにできれば今後地区間の競り合いにも有利――そんなような理由でそれぞれの地区が人を派遣した。もしも教皇がレガリアを持ったままだったら教皇本人にちょっかいを出しに行ったでしょうから、偽の情報で他の地区の動きをあなたたちに誘導したのよ、きっと。」
「囮に使われたという事ですね。しかし結局はしばらく時間を稼ぐだけ――第五地区の教皇様は邪魔されたくない何かを現在進行で行っているのでしょうか。」
「ああ、それならわたしの地区にレガリアの情報と一緒に入ってきたわ。教皇は『聖剣』の封印解除をしようとしているみたいよ。大体の地区はそれよりもレガリアの方が大事だから、封印の方に集中する為にわたしたちをこっちへ移動させたのね。」
「『聖剣』……? こちらに来てからは初めて聞く単語ですね。」
「大昔に封印されたすごい剣よ。ちょっとした爆弾みたいなモノだからそうなっていたけど、強さを求める第五地区なら欲しがっても変じゃない――あらま。」
 自分も含めてレガリアによって行動をコントロールされた、その理由を解明していく中、踊り子さんみたいな服の人がふいに空を見上げた。
「なるほど、あなたたちを外に出したのは偶然が重なってあれも足止めできればとか思っての事だったんでしょうね。」
 踊り子さんみたいな服の人の目線を追うと、いつの間にか空中にどこかの祭司さんみたいなゴテゴテとした服を着た人が浮いていた。
「またお前たちか……」
 それはつい昨日出会った十二騎士の一角、《オクトウバ》――さん、だった。
「未だにレガリアによる封鎖が行われている上に内部には争乱の気配……やはりお前たちが――」

 バシンッ!

 高いところから油断できない気配と圧でオレたちを見下ろしていた《オクトウバ》さんは、突然誰かに叩かれたかのように落下して地面に叩きつけられた。
「だから説明しただろうが! カーミラちゃんたちは敵じゃないし敵にしたらまずい相手だぞって――おいおい、軽く叩いだだけでそんな面白おかしく頭をめり込ませるなよ!」
 宙に浮かんでいた《オクトウバ》さんを叩き落とした――つもりはなかったようだが加減を知らなかったらしいそいつは聞き慣れた大声と見慣れた筋肉で大笑いしていた。
「フィリウス!? 何でここに……」
 さっきポリアンサさんにも言った疑問を再度口にしたオレを見つけると、フィリウスはズシンッと着地し、めり込んだ《オクトウバ》さんを地面から引っこ抜く。
「だっはっは! 神の国に魔人族が来たぞってこいつが俺様のところに来たんだ! んで知らない奴だって言ったらとっとと帰って、そうしたと思ったら風呂の中に突撃してきてな! 身体が水で出来た奴にやられたって話だったから詳しく聞いたら大将たちときたもんだ! こりゃまた何かに巻き込まれてるなと思って《オクトウバ》について来てみれば案の定の再会ってわけだ! 神の国で一体何が起きてんだ!?」
「ちょうどそれも解析できたがだいぶ複雑な事になっているようだぞ。」
 国の中の様子を調べていたらしいユーリがくるりとこっちを向いたのだが、何だが頭の中がこんがらがっているような顔をしていた。
「そっちの人間たちは中から出てきたのだろう? 少し情報のすり合わせと行こう。」
 敵意のない態度でそう言ったユーリなのだが、フードの下からのぞく……エリルの言葉を借りると死人顔にギョッとして一歩下がるポリアンサさんたち。
「だっはっは、交流祭で見た顔だな! 確かカペラ――『豪槍』のところの生徒だったな! 心配するな、そっちのゾンビみたいなのも真っ黒なお嬢ちゃんもただの魔人族で俺様と大将の知り合いだ!」
「ま、魔人、族……ですか……」
 ユーリの顔よりもフィリウスからのその言葉に驚くポリアンサさん。
 既に知り合いや友達のいるオレにはない感覚だが、普通魔人族というのはおとぎ話に出てくるような空想の扱いで、実在しているという事を知っているのはごくわずかだという。騎士も含め、大半の人は一生出会う事はない存在、それが魔人族……らしい。
「しょ、正直桁外れの気配に生きた心地がしませんが、《オウガスト》殿や《コンダクター》の知り合いという事であればこ、心強いというモノですね……わたくしたちも大切な仲間の一人がまだ国内のようなので、現状の確認はしておきたい、ところです……」
「おお、そいつは一大事だな! ぶっちゃけ俺様も《オクトウバ》も状況を把握できてないからな! 説明を頼むぜ!」


 という事で、我ら『ビックリ箱騎士団』と妹のパムとミラちゃんとユーリを加えた一行にポリアンサさんたち、カペラ女学園の面々を追加した大所帯にフィリウスと《オクトウバ》さんという二人の十二騎士のゲストを迎え、結局神の国で今何が起きているのかという事を確認した。

 話の始まりはカペラ女学園の面々。その昔、神の国アタエルカからS級犯罪者『大泥棒』の手によって盗まれてしまったレガリアというマジックアイテムをポリアンサさんたちが偶然発見した。
 それがアタエルカから盗まれた物だと判明し、連絡を取ったところそのレガリアは第五地区の物だという事で、ポリアンサさんたちはレガリアを届ける為に第五地区の統率者である教皇、フラール・ヴァンフヴィートのところへとやってきた。

 レガリアは各地区がそれぞれに所有していた何の変哲もないモノだったが、ある日マジックアイテムとしてそれぞれが能力を得て、結果アタエルカでは大惨事が起きてしまった。二度とこんな事が無いようにと封印されていたはずが『大泥棒』に盗まれてしまった為、基本的には敵対関係にある各地区がレガリア探しだけは協力し、今回ポリアンサさんたちが発見したレガリアは外見から第五地区のそれとわかったので教皇様へと連絡が行った――というのがポリアンサさんたちが聞いた説明だが、まずこれが嘘だった。

 盗まれたのも各地区が協力しているのも事実だが、レガリアと呼ばれるマジックアイテムは一つのみであり、これを利用してある目的を達成したい第五地区は……ここは「恐らく」ではあるが、アタエルカに届くレガリアに関する情報を操作して真っ先に第五地区に来るようにしていたと思われる。これによってポリアンサさんたちはレガリアを第五地区へ届ける事となった。

 本来なら届けてさようならとなるはずが、ここでレガリアの力――思考に作用する能力によってポリアンサさんたちは第五地区の聖騎士たちと模擬戦をするという形でしばらく滞在する事になった。この時点で囮として利用するつもりだったのか、もしくはユズさんをさらった事も含めて別の理由があるのかはわからないが、カペラ女学園の面々はアタエルカにとどまった。

 そして後日、レガリアを狙う賊が国内にいるという事で、その正体が判明するまで再度カペラ女学園の方で保管して欲しいと教皇様から頼まれたポリアンサさんたちはユズさんの存在を忘れさせられた状態でレガリア――偽のレガリアを持って出発し、レガリアを狙う各地区からの追手に襲撃された、というのが現状だ。

 恐ろしい事にポリアンサさんたちは教皇様によって最初から最後まで行動をコントロールされていたというわけだが、ではそんな教皇様は裏で何をしていたのか。レガリアを手に入れる事はただの過程、最終的な目的は『聖剣』の封印を解いてそれを手に入れる事だという。
 そもそも『聖剣』とは何か――これは踊り子さんみたいな服の人が教えてくれた事なのだが、アタエルカが誕生するよりもずっと昔に、その当時から当然のようにそこにあった神の光を研究する一人の魔法使いがいた。その人は神の光を内部にため込む事の出来る剣を作り、その力を何かに利用できないかという事を調べていたという。
 そしてどういうわけか剣にため込まれた神の光がそのエネルギーを増大させるという現象が起こり、魔法使いが死んでもなお神の光をため続けた剣は地面から引き抜いただけで一帯を消し飛ばす可能性のある恐ろしい爆弾になってしまった。
 神の光を目当てに世界中の宗教が集まっていく中、『聖剣』と呼ばれるようになったそれは神の光が降り注ぐ地面の下に封じ込められ、その封印の鍵は各地区の代表――十二人の統率者たちが担う形となった。
 そして現在、自分が封印の鍵である事を知らない統率者もいるくらいに忘れさられたその封印を、教皇様はレガリアを利用して解こうとしている。

 ここで重要になってくる点……というか一番事態をややこしくしているのがレガリアの持つ能力――即ち、他人に思考を植え付ける力だ。これを手に入れた教皇様が目的達成の為にやる事として真っ先に思いつくのは各地区の統率者を操って封印を解くという事だが、それが行われていないところからするに、恐らく操られている状態では解けないような封印なのだろう。
 それでは教皇様はレガリアをどう利用したのか。かつて大惨事を引き起こしたレガリアをちらつかせて他の統率者たちを脅したのか。たぶん半分くらいはそういう狙いもあったのだろうけど、そもそも教皇様率いる第五地区はアタエルカの地区の中で一番の武力を持っている。実際各地区から統率者たちをさらう事まで出来ているのだから、脅すというならいつでもできただろう。
 それでも教皇様が封印解除を実行する為にレガリアの回収を待ったのは、アタエルカごと消し飛ばす可能性がある『聖剣』を抜くとなると必ず阻止しようと動く存在を無力化する為だ。
 一つは十二騎士、《オクトウバ》さんの存在。エリルの師匠でありクォーツ家のメイドさんであるアイリスさんが《エイプリル》であるのと同じ感じで、《オクトウバ》さんの本職は服装の通りの祭司さんらしいのだが、国が無くなる危機とあれば当然止めに入る。アタエルカで一番の武力という第五地区の聖騎士も十二騎士相手ではどうなるかわからない。
 もう一つは白の騎士団『ダイアスディアスポラ』。パムの説明によると、各地区の信仰に関わらない厄介事――例えば凶悪な犯罪者がどこかの地区に紛れ込んだとか、そういう事が起きた時に地区を跨がって行動する事を許されている唯一の騎士団。同様に色で呼ばれている六大騎士団と同格とされるほどの実力らしいので、こちらも教皇様からすれば厄介な相手だ。
 この二つにバレないように実行するというのも、各地区の統率者を集めるというかなり目立つ事をしなければならない以上難しく、だからレガリアの回収を待っていたのだろう。

 そして遂にレガリアを手に入れた教皇様は計画を実行するべく、その力でアタエルカ全域に対して一つの思考の植え付けを行った。それが、「魔法による移動はできない」という考えだ。

 ミラちゃんたちですらこの力によって魔法による移動を封じられたのだから、その効力は絶大。あの時は試さなかったけれど、たぶん「魔法で空を飛ぶ」、「魔法で走る速さを上げる」というのも魔法による移動になるからこの辺もできなくなっていたのだろう。
 位置魔法の使い手である《オクトウバ》さんはこれの影響をもろに受けて戦闘能力は大幅に減少……フィリウスの言葉をそのまま使うと、《オクトウバ》さんから魔法を除いたら貧弱なモヤシ……らしいので、自分の脚で教皇様の所まで行くこともできなかっただろうとの事。
 ただ不幸中の幸いと言うべきか、レガリアが発動したその時、十二騎士の集まりでもなければ国の外には出ない《オクトウバ》さんはたまたま国外にいて、国に入れなくはなったけれど中で完全に無力化される事は免れた。
 そして白の騎士団はというと、残念ながらハッキリとした状況はわからない。普段だと今オレたちがいるアタエルカの周りに広がっている草原で訓練を行っていたりするらしく、それを探して《オクトウバ》さんは壁沿いに歩いていたらしいのだが見つけられなかったそうだ。んまぁ、モヤシという話とあんなに息を切らしていた様子からしてそれほどの距離は探せていないのだろうけれど……
 ともかく、もしかしたら中で奮闘しているかもしれないし、レガリアの力で身動き取れなくなっているかもしれないしで、こればかりは入ってみないとわからない。

 ――と、ここまで情報を整理したところでフィリウスが首を傾げた。

「んん? つまり引っこ抜いたら神の国が丸ごと天に召されかねない武器をゲットしたい教皇の派手な計画って事だろう? 既に封印とやらは解除されていておかしくないだろうがこうして神の国は健在してるわけで、爆弾って考えは杞憂だったぜ――で終わりなんじゃないか? 第五地区っつったらただただ強さを求めるだけの連中だからな! その『聖剣』で大量虐殺しようってわけじゃねーだろうし、あいつらはゲットしたらそれで満足のはずだ!」

 そう、そうなのだ。これは《オクトウバ》さんも断言したのだが、教皇様は『聖剣』の力で何かをしようとはしない。もしかしたらその力を見せつける事で第五地区こそが真の道だと他の地区に示すかもしれないけれど、それは昔から行われてきたアタエルカ内部の宗教同士のぶつかり合いに過ぎない。
 ここに来る前、ミラちゃんから説明を聞いた時も思ったが、教皇様――フラールさんという人はやり方が強引で危険だけども悪い事をしているわけではないのだ。
 だからアタエルカを囲んでいる壁の向こう……国の中で火の手が上がっている現状が少し変なのだ。仮に白の騎士団が思った以上に自由に動けていて、第五地区の聖騎士とぶつかったのだとしても、フィリウスの言う通り『聖剣』は既に抜かれている可能性が高く、であればその衝突が継続される理由がない。だというのに今もなお、火の手は増え続けているようで……ここで浮上するのが、いわゆる第三勢力の存在。

 一つは《オクトウバ》さんが珍しく国の外に出た理由――謎の魔人族だ。アタエルカの上空に突然現れ、何をしたわけでもないのだが観光客のように神の光を見上げていた集団がいて、その中に蝶の羽を生やした老人がいたという。ミラちゃんに聞くとあまり言いたくなさそうな顔で、元々スピエルドルフにいた魔人族で、ある時から人間社会で生活するようになった魔人族だと教えてくれた。表情的に他にも何かありそうだけど《オクトウバ》さんやポリアンサさんたちもいるし、今は聞かないでおこう。
 んまぁ、そもそもその集団というのが――《オクトウバ》さんの前だからか少しためらったっぽいけど「もういいか、面倒だ!」って話したフィリウスによると、どうやらオズマンドの幹部たちだったらしい。この前の戦いでかなりの戦力を失った結果、魔人族と手を組んだのか……状況はよくわからないけれどあまりいい予感はしない。

 そしてもう一つ、これはこの場の誰も把握していなかった存在――中の様子を調べたユーリからの報告で浮かび上がった「何者か」だ。
 ユーリによると、ある特定の電波を発している人が国のあちこちにいるらしく、動きからして火の手の原因はその人たちだというのだ。そしてその電波は全てある場所に向かって伸びていて、まるでその場所から指示を受けて動いている……ような感覚らしい。
 しかも――

「その人間たちが起こしている騒ぎとは比べ物にならないエネルギーで戦闘を行っているグループが二つある。一つは桁違いのエネルギー量からして『聖剣』とやらを手にした誰かと、それを奪おうとでもしているのか挑んでいる誰か。もう一つは逃げる者と追う者、そしてその追う者を追う者……とでも言えばいいのか、鬼ごっこをしている三人がいる。その教皇とやらが起こした騒ぎをキッカケに、何らかの思惑を持った連中が既に戦いを始めているというわけだな。」

 オレたちがここに来たのはあの聖騎士、もしくはその人を指揮しているのだろう教皇様にオレとパムの故郷、パタタ村について聞く為で、宗教間の争いやら『聖剣』やらには興味がない――と、ミラちゃんは言っているけれど、やっぱり横目に素通りとは行かな――

「なるほど、特に問題はないようですね。直接あの聖騎士のところに行きたいところですが、この混乱の中となると上の者である教皇を目指した方が良いでしょう。この国所属の十二騎士もいることですし、他の諸々はそちらにお任せしますね。」

 ――いわけでもないようで、火の手の原因となっている人たちや不明な勢力をひらひらと手を振ってフィリウスに丸投げしたミラちゃんに、フィリウスはだははと爆笑する。
「ま、そりゃそうだわな! だいたい大将たちは冬休みだ! 学生に休み返上させて騒ぎの収拾なんざ頼んだら十二騎士の恥ってな! 本来ならここのモヤシ司祭が一人で全部片づけるべきところだし、こっちは気にしなくていいぜ! 『豪槍』のとこのはその一人いない仲間を迎えに教皇のところに行くんだろ!?」
「そ、そうですが……しかし騒ぎが――無関係な人々が脅威にさらされているのであれば、わたくしたちも何か――騎士の卵としてお手伝いを……」
「だから気にすんな! それに騎士だからってんなら、俺様はまず仲間を助けに行くべきだと言いたいぜ!?」
「――!」
 フィリウスの言葉に何とも言えない顔になるポリアンサさん。
「んん? おいフィリウス、レガリアの影響を打ち消す魔法は私から離れると効果がなくなるぞ。どうやらそっちとこっちじゃ目的地が違うようだが?」
「問題ない……」
 ユーリの心配に答えたのは情報交換をしている間ずっと壁を見上げていた《オクトウバ》さん。
「何の影響で魔法に不具合が生じていたのか、それが理解できた今、それの位置をずらすのはそう難しくない。」
 えぇっと……自分に降りかかるレガリアの力の位置をずらすという事だろうか……屁理屈というか言葉遊びというか、でもそういう事が出来てしまうからこの人は《オクトウバ》なのだろうなぁ……
「いよし! そんじゃ入るぞ!」


 あっさりと、位置魔法……だと思うのだが、ミラちゃんがパチンと指を鳴らすとオレたちは壁の内側にいた。フィリウスと《オクトウバ》さんはいなくなっていたので、たぶんそっちはそっちで事態の収拾に向かったのだろう。
「……俺らはユズを迎えに行くついでにあの教皇を一発殴ったりできればいいかなってところだが……そっちは何かの話がしたい、だっけか? こんな状況に聞きに行くほどの事なのか?」
 具体的な内容を話すとサーベラスさんとかの名前も出て来そうで、ただ「話を聞きに行く」という目的だけをラクスさんたちに伝えたのだが……んまぁ、当然疑問を――
「そちらはこちらの船に相乗りしているようなモノですが、無駄な詮索が不利益に繋がるとは考えられないので?」
 ――抱くところだが、凄く冷たい眼を向けたミラちゃんにラクスさんは思わず一歩下がる。
 オレやエリルたちとは普通に仲良く接してくれるミラちゃんだけど……ま、まぁ、今日初めて会った他人なわけだし、人間と関わらないようにしているところもあるわけで……これが人間に対する本来のミラちゃんという事だろうか……
「ラクスさん、今はユズさんの事だけを。」
 色々と察してくれた――というよりは……あのとんでもない魔法を使う剣術の達人、『魔剣』のポリアンサさんもミラちゃんに圧倒されているようで、少し震える手でラクスさんの肩を掴んで制する。
 今度ちゃんと説明しないとだなぁ……
「んで、俺らはどっちに向かって進めばいいんだ? 『聖剣』ってのは光ってたりすんのか?」
「何となくだが、あちらから力の気配のようなモノを感じる。おれには魔法の気配のようなモノを感知する能力はないはずだが、それでもわかるというのだからきっとこれが『聖剣』に秘められた力の大きさの証明だ。」
 何となくピリッとした空気の中でもいつも通りに会話をする強化コンビ。いつも色んな意味で頼もしい二人だ……!
「方向はそちらで正解だ。しかしさっきも言った通り、『聖剣』の持ち主らしき者は絶賛戦闘中で、だからこうして少し離れた場所に移動してもらったのだが……誰もいないし何も起きていないな。どうなっているんだ?」
 ユーリが……たぶん付け替えたのだろう、紫色の眼であちこちをキョロキョロする。
 街並みを見ただけではここが何地区にあたるのかわからないけれど、見える範囲でもあちこちで煙が上がって爆発音のようなモノが響いている。まさに大混乱……という感じなのだが、おかしな事に逃げ回る人や悲鳴などは一切ない。まるで無人の街が勝手に燃えているかのようだ。
「ロイド様ご懸念の住民の安否についてはわかりませんが、戦闘は目の前で起きていますよ。」
 そう言ったミラちゃんの右手に真っ赤な剣が現れ、それがスッと振り下ろされるとまるで空間を切り裂いたような切れ目が目の前に走り、風船が割れるような音と共に周りの景色が様変わりした。

「がはぁっ!!」

 周りが一瞬で瓦礫の山と化す中、誰かがミラちゃんの前に落ちてきた。
「!?!? な、何が起きた!?」
 突然降ってきたその人が状況を理解できていないような感じに慌てて立ち上がり、ぶわりと大きなうちわで一回扇いだ感じの風がオレたちに吹く。
 何故なら、その人の背中には巨大な蝶の羽が生えていたからだ。
「久しぶりですね、ハブル・バブル。アリスは元気ですか?」
「!?」
 自分の近くにミラちゃんがいるのに気づいたその……蝶の羽のおじいさんはギョッとした顔でぶわりと数メートル後ろに飛んだ。
「じょ、女王……? それにロイド・サードニクス!? 一体何故――ここに、このタイミングで……!?」
「これはハブル・バブル。元スピエルドルフの民です。その羽から鱗粉を撒き、一定の空間を自身の支配領域へと変える魔法を得意としています。何も見えなかったのはその影響ですね。」
 蝶の羽のおじいさん――バブル……さん? の慌てた顔を無視してオレたちに紹介するミラちゃん……

「あら? そちらは確かスピエルドルフの。」

 あの踊り子さんみたいな服の人と同じようにその一言でようやくそこにいる事に気づき、ふわりと着地した女の人にオレは目を丸くした。
 ウェディングドレスのあちこちに金色の刺繍が入ったような派手な服を着てヴェールの下からピンク色の髪を広げている女性――この人がアタエルカ第五地区の統率者、教皇様のフラール・ヴァンフヴィートさん……というのは見てわかったが、問題はその手にした一振りの剣だ。
 見た目はどこにでもありそうな普通の剣なのだが、気配が普通じゃない。こう言うとベルナークシリーズと同じように聞こえるが気配の種類が全く違う。あっちは凄腕の騎士とかからにじみ出る強者の気配のようなモノだが、こっちはもう直感的に「危険」だと感じるタイプ。猛毒をまき散らす物体がガラス瓶などに入らないで裸のまま置かれているのを見るような、そんな危機感をビシビシ与えてくる。
 あれが……『聖剣』……!
「素晴らしい力ですね。この空間、無理矢理こじ開ける以外に方法はないモノかと考えていましたが、実にスマートに破壊されたご様子。これが魔人族最強の種族、吸血鬼の力ですか。」
 特に敵意は感じられず、ニッコリと笑う教皇様はその笑顔のまま辺りを眺める。
「神の光のほとんど真横にいたはずですが、いつの間にかそこそこの距離を移動していたようですね。その感覚すら奪うとは、なかなかの魔法です。」
 ユーリが言うには絶賛戦闘中という事だったが、教皇様には傷一つないし、何なら服が乱れたり汚れたりもしていない。対してバブルさんは身体のあちこちにダメージが見える。これはつまり……
「得意の魔法を使ったというのにこの差とは情けないですね、ハブル・バブル。『聖剣』抜きにしてもこの人間が少し特殊というのはわかりますが、惨敗ではないですか。」
「特殊だと? こんなモノは異常と――」
「どちらにせよあなたに発言権はありません。何の用事でここにいるのか知りませんが、あなたよりも優先するべき事がある現状に感謝して帰ってください。」
 ミラちゃんから有無を言わせない視線を受け、バブルさんは悔しさと恐怖が混ざったような顔で……一瞬オレの事を見た後、ぶわりと羽を広げてどこかへ飛んで行ってしまった。
「さて……フラール・ヴァンフヴィート。先に言っておきますがワタクシたちはあなたが『聖剣』を求めて引き起こした諸々には興味がありません。ここに来た理由はただ一つ、パタタ村について知っている事を全て教えてもらいます。」
「ぱたたむら……ああ、パタタ村。随分珍しい名前が出てきましたね。しかしよくわからないのですが、何故それをわたくしに――ああ、そういえばアディ・プローテを迎えに行ってあなたたちと顔を合わせたのは彼でしたね。」
 聖母様の名前が出てきてハッとする。そういえばあの大きな聖騎士に連れて行かれて『聖剣』の封印を解く為に教皇様に何かされた――のだと思うのだが、ちゃんと無事だろうか。サーベラスさんとヨナさんの事も気になる……
「確かに、彼ならパタタ村について少し詳しいでしょうね。ですがそれは彼の個人的な記憶、そういうものは共有していませんから本人に直接聞く必要があります。」
 ……? 共有?
「ではその「彼」は今どこに?」
「さて、ご存知の通り先ほどまで高度な魔法空間に隔離されていましたからね……」
 教皇様は周囲に手を向け、やれやれと困ったように笑う。
「わたくし以外にも色々と行動していた誰かがいたらしく、各地区にスパイを送り込んでいたようなのですが、『聖剣』を手にした途端にその者たちが攻撃を仕掛けて来ましてね。わたくしは先ほどの蝶々に挑まれましたので、彼には他の聖騎士と共に状況把握をお願いしました。普段であればどこにいるのかわかるのですが、どうにも奇妙なノイズが入るようでうまくつかめないのです。」
「なるほど……ユーリ、この人間と同様の状態の人間を探してください。比較的体格の大きい者を。」
「電波を拾えば何でも探せると思っていないか……? まぁやってみるが。」
 どうやらミラちゃんは理解しているようだけどオレには何の事を言っているのか微妙にわからない点が多い会話だったが……とりあえずあの大きな聖騎士の裏にいたこの教皇様もパタタ村の事を知っているのではという予想は外れ、話を聞くには大きな聖騎士本人に会う必要があるという事。そしてその人は今、アタエルカで起きている騒動……教皇様も全容を把握していないらしい騒ぎを調べる為にどこかへ行ってしまっている……
 ……あれ? 結局この騒ぎを何とかする流れになっていないだろうか……
「『コンダクター』たちの質問は終わりだよな? 教皇さん、次は俺らの質問に答えてもらうぜ。」
 そう言いながら一歩前に出たラクスさんを見て、教皇様は更にニッコリと笑う。
「その様子、全てを理解したようですね。他の地区の精鋭たちを引きつけて頂いてありがとうございました。戻ってきた《オクトウバ》もあなたたちに気を取られればと思ったのですが、会いましたか? 『聖剣』を手に入れる事には間に合いましたがこれから奪われる可能性もありますし、できれば聖騎士たちが再集結するまではどこかで時間を――」
「そんな事よりユズをどこにやった!」
「ふふふ、仲間思いですね。ご心配なく、危害は加えていませんし彼女をさらった目的も達成しました。そうでしょう?」
「何の事だ……」
「得ましたでしょう? 欲していた、新たな力を。」
 教皇様のその言葉に、ラクスさんの表情が変わった。
「こちらとしては予想外だったのですよ? まさかレガリアを届けてくれる学生の中にベルナークの使い手がいるだなんて。第五地区の教皇であるわたくしの前でそんな素晴らしいモノをちらつかせるのですから、欲しくなってしまうのも当然です。」
「……ベルナークの武器が狙い、なのか……」
「いいえ。ベルナークシリーズが真の力を発揮するには条件があり、その強さを得ようと思ったら条件をクリアできる者とセットがベストですからね。狙いと言うのなら、わたくしはあなたを狙っているのですよ、ラクス・テーパーバゲッド。」
 ユーリが目玉や腕を付け替えながら大きな聖騎士を探す横で行われる会話の展開に、オレは思わず教皇様へ顔を向ける。ユズさんをさらった理由がラクスさん……? 新たな力というのは一体……
「あなたの欲しいモノ、その片鱗は体験させました。それ以上を得たいなら、どうぞ聖騎士になってください。」
 さっぱり状況が把握できない会話にびっくりする事しかできないオレだがラクスさんの表情はかなり深刻で、戸惑いの表情からしてポリアンサさんたちにも理解できていないらしい。ラクスさんに何が起きたというのか……
「ん、たぶんこれだ。見つけたぞ。」
「さすがですねユーリ。では……どうやらそちらはそちらでお話があるようですから、ワタクシたちは先に行きましょう。」
「いいのか? 何やら深刻そうな話だし、『聖剣』もほったらかしだが。」
「内容からしてワタクシたちは完全に部外者ですよ。そして『聖剣』はあとでも構いません。裏で動いている誰かとやらのせいで目当ての聖騎士が死んだりした方が困ります。」
 部外者というのはその通りで、この混乱した状況で大きな聖騎士がケガをしたりというのはあり得る話。これまた何となく残った方がいいような気がするが、やっぱり残ってもどうしようもないだろうから、オレはオレと同じような心境のみんなをミラちゃんの方へと促しながらポリアンサさんに視線を送る。
「ポ、ポリアンサさん、その、後は……」
「わかっています……既にお互いの目的は異なっていますから、そちらはそちらで。」
「はい……あ、でもユーリから離れるとレガリアの影響が……」
「心配ないぞ、ロイド。その『聖剣』が異常過ぎてこの辺のレガリアの力は打ち消されている。そこの人間と話すというなら問題ない。」
 ユーリの言葉を聞き、オレを見るポリアンサさんがコクリと頷くと、次の瞬間視界は別の場所へと移って――
「えぇ……?」
 移動した先、確かに大きな聖騎士はそこにいるし何なら他にも似たようなカッコイイ甲冑姿の騎士が何人もいたが……そんな事よりも目を奪った――というか視界のほとんどを埋めたそれに我ながらマヌケな声が出た。
 さっき壁の外でラクスさんが戦っていたという真っ黒な球体に雰囲気の似た金属の塊……いや、よく見ると手足があるから……なんというか、丸々と太ったロボット……?
「ふむ、どうしてお前たちは妙なタイミングで妙な場所に現れるのか。」
 オレたちに背を向けたまま大きな聖騎士が肩越しにこっちを見た向こう、ロボットがググッと腕を引いてパンチを打ち込むような体勢になる。大きな聖騎士に攻撃が来ると言おうとしたその瞬間、ロボットの腕が消え、風がうねり、ロボットが消え、オレたちの背後に何かが落ちてきた。
 ……えぇ……?
 何が起きたのかさっぱりわからないまま後ろを見ると、落下してきたのはほんの一瞬前まで目の前にいたロボットで、頭から地面に突き刺さっている。
「いかんな、このパワーは。」
 そして大きな聖騎士もいつの間にか身体ごとこっちを向いて腕をグルグル回している。その足元には何かとてつもない衝撃が放たれたように亀裂が走っていて……いやいや、本当に何が起きたんだ?
「ティ、ティアナ……」
「う、うん……」
 こういう、目の前で何が起きたかわからない時でも一人だけわかっている――見えているティアナの方を見ると、ティアナはだいぶビックリした顔で説明してくれた。
「あの、黒いのがパンチを……打ったんだけど、す、すごい、とんでもない速さのパンチで、で、でもそこの大きな、聖騎士……の手に触れた瞬間、ぐるんって、黒いのが宙に舞って……あ、あたしたちの上をとんで、そ、そのまま地面に……あ、あの、ロ、ロイドくんの友達の……プロキオンにいた、キ、キキョウって人の動きに、に、似てたよ……」

 フィリウスとの旅の途中で出会った友達、キキョウ・オカトトキ。桜の国ルブルソレーユで刀使いとして有名な家に生まれるも剣術の才能に恵まれず、代わりに授かったモノをフィリウスが見抜き、今はプロキオン騎士学校にいる。その特技は――

「キキョウと似た動きということは……つまりあのロボットのパンチを――柔術で受け流したって事……?」
「そ、そうだと思うよ……」
 大きな聖騎士は確かに大きいけどロボットの方は周りの建物との比較からして十メートルくらいはある。そんな巨人が放った、ティアナが「とんでもない速さ」と言うくらいのパンチを受け流した……? その衝撃で足元に亀裂が……? フィリウスみたいなデタラメさだ……
「さて、こちらは少々多忙なのだが、何か用か?」
 のろのろとではあるが立ち上がろうとしているロボットを横目に大きな聖騎士がオレたちに尋ねる。
「そちらに用事があるのは確かですが……その前に何ですか、これは。」
 意外な事に、ここまでアタエルカで起きている問題や『聖剣』に興味無さそうにしていたミラちゃんがかなり真剣な顔でそう言った。ついでに言えばユーリは驚きに喜びがくっついたような顔をしている。
「さてな。生気のない顔で暴れる者たちを抑えて白の騎士団の代わりに避難誘導をしていたらどこからともなく現れた。鈍足ではあるが見ての通りの規格外、いつまでも止められん。進行方向的に教皇様を目指しているようだから何とかしたいのだが。」
 そう言いながら自分の手を見る大きな聖騎士。微かに震えているところからするに、今の投げ飛ばしは何回もできるモノではないようだ。
「教皇――あの人間って事は『聖剣』か! まずいぞミラ、仮にこれが『聖剣』を取り込んだりしたら……」
「そうですね……まったくどこの誰の仕業なのか……」
 大きなため息をついたミラちゃんは申し訳なさそうな顔をオレに向ける。
「すみませんロイド様、そこの聖騎士に話を聞いたらワタクシとロイド様の素敵な休暇に入る予定でしたが、これは少々見過ごせない代物です。」
「ステキな……え、えぇっと……あのロボットはそんなにまずいの……?」
「人間の間で言うところのS級犯罪者やSランクの魔法生物に相当するのではないかと。」
「えぇ!?」
「先ほどの『聖剣』が莫大なエネルギーの塊であるなら、こちらは膨大な技術の塊……科学的な面はワタクシにはわかりませんが、少なくともあれの中を流れている魔力の流れは見た事が無いほどに精密で、そこから描かれる数多の術式があれを尋常ではない存在にしています。」
「科学と魔法が組み合わさったロボット……で、でも何で『聖剣』がまずいの……?」
「完璧と言っていいほどの出来栄えですが、あれが内包する術式とあれの中にあるエネルギーを比べると、ただの歩行でもあと三十分ほどでエネルギー切れです。戦闘ともなれば更に早まるでしょう。ですが、もしも『聖剣』が持つエネルギーを取り込んだなら……あの剣の底は見えませんでしたが表面的に見える分だけでも数年間は暴れられるようになってしまいます。そうなってはもはや一つの災害――スピエルドルフも無視はできないレベルの事象となるでしょう。」

「一目でそこまでわかるような奴に登場して欲しくないんだが。」

 不意に、さっきまでロボットがいた場所――位置的にオレたちをロボットと挟むような所に現れた人物が、かなりイライラしてそうな口調でそう言った。
 全身を銀色の……何やらとてもカッコイイスーツ――いや、あれはアーマー……? とりあえずスタイリッシュな格好でその身を包んだその人は、おもむろに右の手の平をオレたちに向け――

 ――ィィイイインッ!!

 ――たと思ったらガルドの飛行機が飛ぶ時みたいな高い音が響き、オレたちは真っ白な光に包まれた。数秒後、音が鳴り止んで周りを見ると、銀色の人がいる場所からオレたちの遥か後方まで一直線に地面がえぐれていた。
 唯一、いつの間にか展開されていたドーム状のバリアのようなモノに覆われていたオレたちの足元を残して。
「今の攻撃を完全防御とは流石魔人族というべきか。自分たちも守ってもらい、感謝する。」
 このバリアはミラちゃんのおかげらしく、ドームの中に入っていた聖騎士の人たちが大きな聖騎士に続いてミラちゃんへ一斉に頭を下げる。どうやらこの大きな聖騎士は聖騎士隊の中でも上の方のようで……もしかすると隊長なのかもしれない。
「死なれては話が聞けませんので。」
 淡々とした顔でオレたちの後方、今の攻撃をもろに受けたと思うのだが無傷で、だけど地面がえぐれたせいで転んでいるロボットを見て再度ため息をついたミラちゃんは、攻撃をしてきた銀色の人へと右手を向けた。
「とりあえず、ロイド様に攻撃をしましたので殺します。」
「ちょっと待て、ミラ。」
 流れるようにギョッとする事を言ったミラちゃんの腕をユーリが掴む。
「よく見ろ、あのロボットと構造がそっくりだ。ロボットを破壊しても作った奴が健在なら意味がない。こっちは喋れそうだし、情報を聞き出そう。」
「……仕方ありませんね……それで、いきなり出てきたそっちは何者ですか?」
 構造が同じ……ミラちゃんが言っていた魔力の流れが同じという事だろうか? つまりこっちの銀色の人も災害レベルのロボット――

「ふざけんなよ、どいつもこいつも!」

 ――と思ったのだが、スタイリッシュな見た目と違って内面はクールではないようで、頭を抱えて地団太を踏む銀色の人。ああ、この反応はきっと人間だ……
「どうして今日! この大事な時にあいつらとかお前らみたいな面倒くさい奴らががん首そろえて大行進してくんだよ猿共がぁっ!!」
 バタバタと暴れる銀色の人に対し、ミラちゃんの……表情が少し怖くなる。
「その怒りはこちらのセリフ。ロイド様との甘いひと時を邪魔して、こちらの質問にも答えられないのなら猿以下。お前は何だと聞いている。あっちのでくの坊の兄弟か?」
 ミラちゃんの言葉にゾワリとした気配が乗り、空気がピリッとする……ミ、ミラちゃんが怒っている……
「……でくの坊……?」
 イライラを全身で表現していた銀色の人の動きがピタリと止まった。
「何も知らない……わかってない素人が適当な事を抜かすなよ……完成はしていないが完全の一歩手前があれだ……今日! 計画通りに行けば! 今頃は『聖剣』を手に入れて自分の研究は更に近づくはずだった! それをお前らみたいな連中が引っ掻き回すせいで――」
「今の発言からしてでくの坊の作者はお前か。必要な情報はそろった、もう死ね。」
 目にも留まらない速さでミラちゃんが片腕を横に振り、空間ごと切断したんじゃないかと思うくらいの巨大な紅い斬撃が正面の景色の上半分を消し飛ばした。
「お、おいミラ、ちょっと早計だぞ……」
「……腹の立つ人間ですね……」
 顔を青く……んまぁ元から青白いけど青くするユーリに対し、ミラちゃんは視線を正面から右方向へと向けていた。
「天敵の次は化け物か! いい加減にしろよクソッ!」
 少なくともオレには回避する方法が思いつかなかった今の一撃を避けたらしい銀色の人は、オレたちの真横にある崩れた建物の上へと移動していた。
「だがそんな連中でも『聖剣』を手にしたあいつの敵じゃない! サイズ以外は完璧なんだからな!」
 銀色の人がバッと手を振ると、転んでいた状態からようやく立ち上がったらしいロボットがシャキンッと姿勢を変え、次の瞬間足の裏からジェットを噴射して猛スピードでどこかへ飛んで行った。
「――ユーリ、あとは任せます。」
 そしてそれを見たミラちゃんはそう一言残して姿を消した。
「やれやれ、了解だ女王様。」
 ふぅと息をはいたユーリは、ロボットを追おうとしていた聖騎士たちに声をかける。
「あー、あれはミラに任せて大丈夫だ。あれを足止めできる者は現状、ミラしかいない。あんたらが言っても邪魔になるだけだぞ。」
 太陽の光を防ぐフードを取り、素顔を見せながらそう言ったユーリに、大きな聖騎士は「ふむ」と頷いた。
「あれとこちらの実力差、そしてあの女性の強さは理解できている。恐らく君の言う通りなのだろう。それではそこの者を――」
「こっちは私らで対処できる。住民の避難の途中だったんじゃないのか?」
「対処……?」
 ユーリからオレたちへと顔を向ける大きな聖騎士。
「全員魔人族、というわけではあるまい。他は人間の子供にしか見えないが。」
「事実だが、私の力が使えるのはこのメンバーのみ。あんたらはこれまた邪魔だ。」
「……よかろう、白の騎士団をああした以上、こういう事態では我々が対応しなければならないのは事実だからな。」
「理解が早くて助かる。くれぐれも死なないでくれよ? そんな事になったらミラに何をされるかわかったもんじゃない。」
 大きな聖騎士と彼が率いる他の聖騎士たちが火の手の激しい方へと飛んで行き、オレたち――『ビックリ箱騎士団』にパムとユーリを加えた面々……つまりはオズマンドのラコフと戦った時のメンバーがこの場に残った。
 ……んまぁ、あの時オレは寝転がっていただけなのだが……
「説明が足りないだろうから捕捉するが、あのロボットは危険過ぎる上に『聖剣』を手に入れたら割とどうしようもないレベルになるから、今いる面子であれを破壊できるだけの力を持っているミラが壊しに行った。」
 ぐるぐると変わっていく状況に頭もぐるぐるしていたオレ……いや、たぶんオレたち、はそれぞれに深呼吸したり顔をパチンと叩いたりしてユーリの説明を聞く。
「そしてあれの作成者である人物がそこにいて、あのロボットと比較すると見劣りするが同じ技術が使われているから普通に強い。聖騎士ら、特にあの大きな聖騎士であっても下手をすれば殺されかねない。話を聞く為にもリスクは下げたい――という事で聖騎士には騒動の方を任せ、私たちであの人間もどきを倒す事としたい。」
 そう言って指差した先、建物の上にいた銀色の人は何故か苦しそうにしゃがみ込んでいた。
「きさ……貴様、い、一体何を……」
「あれは強い。強いんだが、恐らく世界で一番相性の悪い相手が私だ。昼間な上に神の光もあるから私自身はあまり戦えないが、この前のようにロイドたちの戦いをサポートする事はできる。ささっと倒してしまおう。」
「えぇっと……ユーリ、今あの人を人間もどきって言ったか?」
「ああ、あれは人間だが全身が機械だ。本人の意思――魂とでも言うべきモノは随分小さい部品となって中にあるようだな。」
「……それってこの前戦ったあの嫌な女ロボットみたいな感じかしら……」
 エリルが言っているのは……オレも後で聞いた話だけど、オレが『奴隷公』と戦っている時にエリルたちが戦った『ケダモノ』の二人は身体の所々が機械で出来ていて、姉のチェレーザの本体は小さなガラス玉だったという。
「それが誰かわからないが、似たような経験があるなら都合がいい。一度繋いだ事があるから二回目はよりスムーズになるだろうし、正直こちらが負ける要素はない。」
「つなぐ……お、おいユーリ、まさかこの前みたいなあの……か、考えている事がみんなに伝わるようにするあれをやるのか……?」
「『ウルストンクラフト』。そうだ、今度はロイドも戦いに参加できるな。」
 あの魔法を使った時のコンビネーションは確かに凄かったが、それよりもオレの……み、みんなに対する想いを伝えてしまったのもこの魔法なわけで、案の定エリルたちは顔を赤くしている……!!
「一体何なんだクソガキ共……! 自分の邪魔を、しやがって……!!」
 と、作戦会議をしている間に苦しそうにしながらも銀色の人はゆっくりと立ち上がっていた。
「何でこんな、重大な局面で……ガキと戦わなきゃ、いけねぇんだクソックソッ! クソッ!」
 湧き上がる怒りを噴き出すかのように、身体のあちこちがガションガションと開いて蒸気のようなモノが噴出する。
「見た感じ正式な騎士ですらねぇ、学生かそこらだろ! 挑む相手を間違えてんだよっ!」
 挑む相手……そういえばこの銀色の人が何者なのかが全然わかっていない。ミラちゃんたちが危険視するようなロボットを作れるから――っていう理由で今戦う事になっているし、いきなり攻撃されたし、何か計画がどうって言っていたからもしかしたら教皇様以外に裏で動いていた謎の誰かがこの人って事もあるけど結局どこの誰なんだ……
「パ、パム、もしかしてこの人は凶悪な犯罪者だったりするの……?」
「自分も全ての悪人を覚えているわけではありませんし、あの格好では顔が見えませんから何とも。」
「ああ、ああそりゃ仕方ねぇな! このアーマーも自分の顔も、最後に騎士に見つかってからかなり変わってっからなぁっ!」
「……つまりあなたは指名手配されている犯罪者だと。」
 銀色の人の言葉にパムが目を細め、それを見た銀色の人は……何故か更にイライラし出す。
「ああ……何だこりゃ、クッソ! 騎士に見つかるのなんざ面倒なだけで知られていい事は一つもなかったはずがガキ共に誰かわからないって顔されるのがこんなにムカツクのか? いつから自分は『世界の悪』みたいな奴になったんだ、クソがっ!」
 頭をグワングワン振って変な踊りみたいに動いた銀色の人は、ハッと何かに気づいて自分の両手を見つめて……いや、なんて情緒不安定な人なんだ……
「そうか……もはや最初の自分がどんな奴かもわからない自分にあるのは世界最強の目的と騎士がつけた名前だけ……そうか、自分がこの二つ名を気に入っているのはそういう理由か……なるほどなるほど、これは気合を入れて守らないとだよな……」
 ゆらりと姿勢を正し、歩き出す直前のモデルさんのように容姿通りのスタイリッシュな立ち方になった銀色の人は名乗りを上げる。

「自分はS級犯罪者、『フランケン』だ。」

 どこかで聞いた気がする名前だが、その前の言葉――S級犯罪者という単語にオレたちは目を見開いた。
 ただ一人だけ、基本的に落ち着いた表情で余裕のある雰囲気の、エリルから死人顔と呼ばれて初見の人からはもれなく驚かれてそれを見て笑っているオレの友達の一人は、驚きとは全く違う感情を顔に浮かべていた。

「あ?」

騎士物語 第十一話 ~神の国~ 第六章 各々のかいえんごと

第十話にて名前が登場した『フランケン』と本物のフランケンシュタインの末裔が出会ったのは、完全に偶然です。そもそも『フランケン』が話の流れ的に必要なので登場しただけだったのですが、まさか今回の話の敵となるとは驚きでした。ユーリが連れてこられるのも予定にはありませんでしたしね。

予想外と言えばもう一人、少し面白い人が出てくる予定ですが……これ以上めちゃくちゃになる神の国が心配です。

次からは延々と戦闘のような気がしますね。

騎士物語 第十一話 ~神の国~ 第六章 各々のかいえんごと

予想外に大所帯となって神の国へ戻ってきたロイドたちはいくつかの戦闘に遭遇、 今回の騒動の首謀者の一人と対面する事となったのだが――

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更新日
登録日
2022-09-25

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