ひずむ、秋

 かわらない。なにもかも、七百年前のままだって、孤独な犬は言っていた。孤独、であることを、犬は誇りに思っていて、ぼくの眠りはいつも、唐突で、暗い海の底には、やさしくなれなかった誰かのきもちが澱み、沈んでいて、燃え尽きた森にはいつのまにか、不可思議な生命体が棲みついて、月はやや欠け気味で、それでも、ぼくらには、生きる、という選択肢しかなくて、存在するはずの対義的なそれは、勝手に消去されていた。あのこは、偽りの愛にまみれて、それが誠であるかのように洗脳されて、でも、かわいそうって、みんな哀れまなかった。しあわせそうだったから。
 水族館ではない。ちょっとした展覧会の、片隅に、その水槽はあって、アロワナは泳いでいた。緑の手を持つ、あのひとのことを、孤独な犬は敬い、慈しみ、七百年前とかわらない、あのひとのおだやかさを、一種のフェティッシュとして捉え、犬はひとりのにんげんを、永久的に愛していた。

ひずむ、秋

ひずむ、秋

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-22

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