正統派パフェ

 絵のなかのせかいは、しあわせなのだろうか。マリーゴールドの花をいちりん、そえて。コールドスリープをしている、きみが、ときどき、わたしの夢にあらわれて、さみしくないよ、と、微笑む。十四時。黒いエプロンをつけた、あらいぐまが、きまぐれにつくるパフェの、バニラアイスクリームにささったウエハースを、ネムが、ぱりぱりと噛み砕いて、なぜか、おこさまランチのための小さな国旗を、あらいぐまはひとつ用意して、わたしの注文した、コーヒーゼリーにもられた生クリームに、つきたてた。(やわらかくて、たおれそう)
 傷ついた星の体内で、おかあさんのおなかのなかにいるような感覚で、こどもたちが、甘くて、やさしい、ふわふわと、かろやかな眠りに沈んでいるあいだに。包帯をまいて、血をとめよう。やわらかいものでそっと、くるんであげよう。パフェを食べるための、長いスプーンで、バニラアイスと、コーンフレークと、チョコレートと、バニラアイスの層を崩しながら、誓いを立てるみたいに、ネムが言う。わたしは、なにも応えずに、いまはもう、稀少な存在となってしまった、たばこを一本、くわえる。さいきんは、いつも、火をつけるのを一瞬、ためらう。あらいぐまは黙々と、コーヒー豆を挽いている。

正統派パフェ

正統派パフェ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-19

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