額縁の向こう
わにさま。夜空を仰いでいるあいだに、あしもとの花が枯れていく。月が欠けて、次第に、この星の酸素は飽和して、意識が、炭酸水に浸かって、まぶたのうらで光がはじける。図書館でみた、あの、古生物の図鑑のこと。ああいういきものが、実在していた時代に、わたしはうまれたかった。きもちわるいって、きみは吐き捨てたけれど、でも、わたしたちだって、きっと、遠い昔、遥か未来のだれかからみれば、きもちわるい、かもしれない。もう、あとは、朽ちていくだけの、わにさま。かれのまわりだけ、セピア色に変わっていく。
ふたご、ではない。分裂しただけの、あのこたち。ひとつが、ふたつになっただけのはなし。
すこし気のはやいマカロニグラタンをたべながら、いま、いきている意味ではなく、これから、いきてゆく意味をかんがえている、きみの、左右の、まったくちがう造形のイヤリングをみつめて。
おなじかお、おなじからだの、あのこたちが、わにさまのかたわらで、ねむりにはいろうとしている。
額縁の向こう