夏曇り

夢の中で大きな鳥を見た。大きな翼と大きな尾を持つ、ワシに似た鳥だった。
私達はそれを追いかけていたけれど、捕まえるためだったのか、近くで見たかっただけなのか、覚めてしまった今となっては分からない。
体温以上になった気温のもとで、蝉さえも鳴くのをためらっている。エアコンのタイマーが切れるまでは安眠だ。べたつく湿度はベッドから離れる理由としては弱すぎる気がした。
やっとのことでからだを持ち上げる、水が飲みたかった、裸足がはりつく、畳のへりの感触に驚く。最後に替えた日のことはもう誰も覚えていない、ここは持ち主が居なくなった部屋だった。

空模様が心象風景だと言うのなら晴れたことなんてなかったさ、といつか言っていた。ここはつねに薄曇りで、暑さでさえ絵に描いたような入道雲を連れて来はしない。
だけど楽しいことは楽しかったしそれらを分け合える人がいるのは幸せだったね、と、滅多になかった笑い顔はとうにおぼろだ。
夏は寂しいんだ人がいなくなるから、と呟いた、けれど誰かが帰って来るわけもなく、会いたいと願ったことすら忘れるのだろう。忘却はたちの悪い薬で、遅効性の安らぎをもたらしてくれるから。

思い出す夢の中で、私は大きな鳥を追いかける。
いつかどこかで見たはずだと焦燥を重ねて、熱帯夜の空を走る。

夏曇り

今年の夏はそんな感じの天気でした。

夏曇り

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-04

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