愛について

 みんな、土を愛でたね。
 たぶん、そこに、だいすきなひとたちが、たくさんいて、なんとなく、あたたかい感じがするから。森のなか。アルビノのくまが、みんなを、かわいそうと、かわいいがいりまじった眼差しで、みている。慈しみと、軽蔑。同情。

 うたをわすれた、カナリアが群れをなし、夜明けを渡る。ぼくがキッチンで、甘いカフェオレをつくっているあいだに、きみが、テレビをつけて、他の時間帯の厳かさとは異なる、ただ、静けさを湛えただけのニュース番組が、ながれる。ねむらないひとたちの、活動記録。ぼくらが、一時的に意識を手離しているあいだにも、世界は変化している。

 機械仕掛けの、あたらしい人類が、駆逐していく大地を、みんな、どうしようもないとあきらめながらも、それでも、森にあつまって、だいすきなひとたちがいる土に触れて、感動している。
 あやまって、ほんとうに苦い虫を噛んでしまったような、表情を、アルビノのくまはして、魔法瓶に淹れてきた紅茶を飲みながら、ぼくらは、しらないだれかとだれかの逢瀬を、ながめていた。

愛について

時雨の「illusion is mine」の好きなところは、さいごのサビで、パートがいれかわるところだなあと思った。

愛について

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-29

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