八月のアルペジオ

(真夜中は、海の底)
 しんじていたものたちが、こぞって、うそをついた、街で、地下の実験室を棲み家にしていた、あのひとが、あいされるようになる薬をつくって、のんで、結果、うちなるもうひとつの人格に、あのひとはあいされるようになって、それで、しあわせになったというから、わたしは、それでよかったのだろうと思った。
(自己愛、というのだろうか)
 しっているかもしれないけれど、媒体関係なく、世間ってやつはときどき、だれかのからだのなかの、ひどくやわらかいところを、めった刺しにするし、ときには、ふかふかのブランケットでそっと、くるんでくれるから、戸惑う。
(二面性、いや、多面性をもつ、つまりは、やさしくて、辛辣で、可愛らしくて、憎くて、無関心で、お節介、的な)
 わたしは、わたしではないものから、あいされることに意味があると思っていたけれど、そうだね、わたしが、わたしをあいしてあげなきゃ、わたしが、わたしじゃないものになるかも、しれないものね。
(肌を撫でる、風に、夏の終わりの気配)

八月のアルペジオ

八月のアルペジオ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-28

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