台風

 ちかづいては、はなれてゆくひとびとみたいね。
 宇宙という、茫洋としたものから、わたしたちをすくいあげるだれかは、いないかもしれないけれど、でも、この星のひとたちはなんとなく、だいじょうぶだと思う、と、根拠のないことを云ったのは人型ロボットとなったエヌだった。現在の正式名称は、N式五〇七型。ホットケーキミックスでつくったドーナツが、好きな子だった。エネルギー源として、よく、まんがのなかのロボットがのんでいるような、オイルではなく、どうせならば、ホットケーキミックスでうごくからだになりたかったと、はじめのころはぼやいていたっけ。わたしはときどき、わたしとおなじ、生身のひとだったときのエヌのことを思い出して、でも、容姿や言動は、ひとだった頃のエヌとまったくおなじであるから、ふしぎな感じだった。
 そとは大雨だ。
 さいきんのこの地球(ほし)は、にんげんではどうにもできない事象にひどくなやまされている気がする。
 みえないなにかに取り憑かれているみたいと、エヌはつぶやいて、屋根から流れていく、まるでちいさな滝となった雨をみつめている。

台風

台風

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-13

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