すき

 めがねを、かけてんねんな。あのひとは。夜。昼はコンタクトレンズで、夜は、めがねで、おれが、おもしろがってうばうと、あのひとは、ちいさく、息を吐くみたいに笑う。好き、というきもちと、愛しい、というきもちは、もう、たぶん、イコールになってるし、はよう、あのひとだけのおれになりたい、と思う。雨、やまんなぁとぼやくと、あのひとは、深夜の森のなかでしゃべるような静かな声で、そうだな、と答えて、おれは、窓辺のサボテンをながめているあのひとの背中に、おでこをくっつける。あのひとのにおいは、冬の、夜が明ける頃の、空気のにおい。
 二十五時に、星が鳴く日は、胸んなか、ざわざわとして、なんや、きしょくわるいし、そんな日は、いっつも、あのひとのからだと、おれのからだのどっか一部でもくっついていれば、それだけですこしは、ラクになるんや。で。
 あかん、めっちゃねむい、と、おれが言うと、あのひとは、眠れ、と言って、それから、おれのあたまを、なでる。無骨な手が、小動物でもなでるみたいに、こわごわとうごいてるから、ああもう、めっちゃ好きやあと内心もだもだしながら、めがねのむこうの、あのひとのまなざしを、ひとりじめするように、じっとみつめる。

すき

すき

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-06-14

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