六月のキマイラ
みていたのは、なまえもない星。学校としての機能はうしなったけれど、生きている。教室。植物が密集し、なんらかの生命反応が蠢いている気配がして、ちいさなその空間でおこなわれる、せい、と、し。むせかえりそうなほどに。凝縮された世界で、ぼくと、ナオと、イマリのさんにんは、むちゃくちゃに変態的で、刹那的で、酷薄な性行為をして。たぶん、ほろびをまっている。いつかくる。くるはずの、それ。
はんぶん獣のひとが、ある夜に、ケーキやさんをしていて、彼のつくるベイクドチーズケーキが、この世のすべてのベイクドチーズケーキの頂点みたいに、おいしいから、それをたべるためにも、ナオと、イマリとの関係を断ち切るのが、ぼくとしては最良、と思っている。ナオは、きまぐれにしかキスをしないし、イマリは、ときどき、ぼくのことを好きだと言いながら、くびをしめてくる。教室を埋めつくす植物は、緑ばかりで、花なんてひとつも咲いていないはずなのに、ふいに、花のようなにおいがして、からだのなかの、奥の、やわらかなところが、かすかに熱をもつ。はんぶん魚のひとと、海で、いっしょに朝陽をみていたときの感じに、にている。
おわりは、まだ遠く。
六月のキマイラ