オーソドックス


 青い鳥を休ませようと
 姿を晒したその朝。
 物語的に設けたその場所で
 私が死んだと語られた
 白紙の束をトン、と打つ。
 その事務的な神秘と
 眼鏡の縁。
 チチチと歌い、告げる
 生の表と裏の格子。




 名乗れないから、表現する。
 固有のこの振動と
 四肢の道連れ。
 瞳に乗せた潤いを
 冷ややかに扱う、原初の質と
 触れる指。
 輝きは無邪気に増す。
 黒髪は
 梳いて解かれる。
 感情は、インク瓶の前
 遠慮なく
 使われる為。




 薄い絹の舞。
 「   」と歌われて。


 赤くなった耳、
 喜びと嬉しさの等価と。
 銀の杖(じょう)


 振るわれて露わになる。
 以前の語りと、
 重複した台詞の質、量的な恋。


 役割を果たした喉を労わり
 弦を張ったしなりを守って


 ひとは眠った。
 鎌は
 残された。


 真っ黒に塗られて
 それでないまぜに、
 愛が消されて。
 私の
 開く目に、目。




 羽ばたきに目覚める心地良さと
 燦々に降り注ぐ
 だから人工的な灯り。
 青みがかった群像劇は静止して
 撮られていて
 近くから、遠くまで。
 胸を押さえて、灰になるまで
 再生続き。


 あの、四つ足の愛猫まで。


 日に焼けるから思い出は
 色褪せて、
 大きく変わっていく。
 立ち上がる度、せっせと埃を払っても
 換気扇の音に負けて
 他人の声音、その詳細を見失う。


ーーー


 セメント色の
 床に容易く触れる、指を用いて
 上手に
 雑誌に引き寄せて
 意識を
 目立たせる、


 探偵。
 茶色の革のソファー、なんて。
 そうボヤいたって
 この唇からは何も
 嘯きはしない。
 立ち上りはしない。
 真っ白なハットなんて


 「とうに売ったさ。」
 そう打ち込む音のリズミカルな、日常。


 この手によって洗われない、陶器のカップなんて一つもない。
 終わらない。
 いや
 終えられない。


 だから
 愛は、
 恋は。


 これもまた、オーソドックスに




 真っ赤な洋燈、
 和らぐ祈り。
 生の表と裏の
 ささくれ。


 純白を装った裾を翻し
 感情は、
 打ち震えて泣いた。
 喉はこうして、
 役割を覚え
 弓形の背中に生やす。
 異形の


 装丁の
 不揃いに
 温かい、物語。


 設えた場所から舞い戻り、
 私(わたくし)はこうして


 紡ぐ言葉に、空白に息づく。生きている。

オーソドックス

オーソドックス

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-06-08

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