死に至る熱病 後編:正義と悪のレゾンデートル

死に至る熱病 後編:正義と悪のレゾンデートル

台本概要

◆声劇台本名◇

 『死に至る熱病 後編;正義と悪のレゾンデートル』


◆作品情報◇

 ジャンル:サスペンス
 上演所要時間:30~40分
 男女比 男:女:不問=2:2:1(合計:5名)


◆注意事項◇

 ・本作品は、フィクションです。
 ・本作品は、犯罪や自殺を肯定(こうてい)する内容ではありません。
 ・本作品は、暴力的・残酷(ざんこく)的な表現があります。
 ・本作品は、精神的に弱っている状態での閲覧(えつらん)非推奨(ひすいしょう)となります。

登場人物

 結城 正道(ゆうき まさみち) ♂
  本作の主人公で、警視庁捜査一課の刑事。
  正義感が強く真面目な性格で、面倒見が良く後輩の刑事たちから
  慕われている。

 村瀬 修史(むらせ しゅうじ) ♂
  結城(ゆうき)の大学時代の同期で、元々は警察官。現在は私立探偵(しりつたんてい)をしている。
  飄々(ひょうひょう)とし女性関係にだらしがない人物ではあるが、博識(はくしき)で頭の回転
  が早い。

 花衣 泉美(はなえ いずみ) ♀
  東京地検特捜部(とうきょうちけんとくそうぶ)の検事で、(りん)としたクールな女性。
  自分が担当している事件で、舞薗(まいぞの)が関与しているため結城(ゆうき)と協力する。

 篠宮 遙(しのみや はるか) 不問
  大学で心理学の教授を務めており、犯罪プロファイリングは右に出る者
  はいないと言われる程の有名人。警察の捜査にも時折協力している。
  クールでシニカルな性格で常に敬語を(しゃべ)る。

 南羽良 楓(みなはら かえで) ♀(※舞薗 姫喜の兼役です)
  警視庁捜査一課の刑事であり、結城(ゆうき)の後輩兼バディであった。故人(こじん)
  明るくてまっすぐな性格をしており、先輩の結城(ゆうき)と付き合っていた。

 舞薗 姫喜(まいぞの ひめき) ♀
  都内の名門女子高に通う女子高生で、天真爛漫(てんしんらんまん)な優等生で人気者。
  事件の元凶(げんきょう)であり、「他者に自殺をすることへの喜びを与える」悪魔(あくま)

上演貼り付けテンプレート

 台本名:『死に至る熱病 後編;正義と悪のレゾンデトール』
 URL:https://nigatsusousaku.wixsite.com/atelier-craft

 結城 正道:
 村瀬 修史:
 花衣 泉美:
 篠宮 遙 :
 舞薗 姫喜/南羽良 楓:

【アバンタイトル】

舞薗:ひとつ、ひとつ、命の(ともしび)が消えていく。

舞薗:残りは、あと4つ。

舞薗:そして消え入りそうな1つの(ともしび)

舞薗:残りの3つに、私が入っているのかしら?

舞薗:うふふ、なーんてね。


花衣:()(いた)熱病(ねつびょう)
舞薗:後編(こうへん)正義(せいぎ)(あく)のレゾンデートル。

【Scene01】

<どこかの倉庫。手足を麻縄で縛られている花衣>

花衣:っつ……ここは……

舞薗:目が覚めましたか? 花衣(はなえ)さん♪

花衣:舞薗(まいぞの) 姫喜(ひめき)……!
   貴様……!!

舞薗:そんな(こわ)い顔をしないでください。
   綺麗(きれい)な顔が台無(だいな)しですよ?

花衣:ふざけたことw、今すぐお前を――

舞薗:無駄ですよ。
   手足を(しば)られているんですから~
   そ・れ・に♡

花衣:ぐっ!

舞薗:……抵抗(ていこう)するなら殺しますよ?
   忘れないでください。
   私は他人を自殺させることが出来ます。
   本当だったら、今すぐにでも貴女(あなた)には死んで(もら)ったほうが
   いいんですけど……結城(ゆうき)さんとのゲームのために、
   まだ死んで(もら)っては困るんです。

花衣:ゲーム、だと?

舞薗:はい、そうです!
   名付けて「正義と悪、どっち勝つでしょうか?」ゲーム!!
   わーパチパチ。

花衣:ふざ、けるな……

舞薗:花衣(はなえ)さん。
   私、まともな人間じゃないんです。
   まともになれない、と言った方が正しいかも?
   ……生きているだけで他人の心を()(みだ)してですって、私と言う人間は。
   男には性欲を逆撫(さかな)でし、女にはエクスタシーのような快楽を与える。
   だから……友人と呼べるヒトなんかいませんでした。
   いや、ひとりはいました……でも、結局はいなくなってしまいましたね。
   想像できます?
   寄ってきた男が必ず私を無理矢理(むりやり)(おか)そうとするんです。
   実の父親にそうされました。

花衣:(絶句して声が出せない)

舞薗:だから……私、壊れちゃいました。
   ねえ、花衣(はなえ)さん?
   ヒトを殺すことがどうしてダメなんですか?
   法律的な問題ですか? 倫理的な問題ですか?
   そうしないと、自分を守ることが出来ないとしたらどうします?
   『悪』ってなんですか?

花衣:そ、それは……

舞薗:教えてください。
   『正義』ってなんですか?

【Scene02】

村瀬:それじゃあ、セイドウ。
   5時に事務所に来てくれ。

結城:わかった。
   事件を担当している所轄(しょかつ)の警察署に知り合いの刑事(けいじ)がいる。
   行く前に、ソイツと会ってみる。

村瀬:了解した、俺の方でも別ルートで情報を集めてみる。

結城:別ルートって、それは――

結城・村瀬:企業秘密(きぎょうひみつ)

村瀬:その通り! それじゃあ、後で。

結城:あぁ、わかった。

篠宮N:そう言って、村瀬(むらせ)は乗っていた車を発進させて何処(どこ)かへと向かった。
    すると、結城(ゆうき)の携帯から着信音が鳴る。
    ディスプレイに表示されていた番号は、花衣(はなえ) 泉美(いずみ)のものだった。

結城:もしもし、どうした?
   まだ、待ち合わせの時間じゃ――

舞薗:ハロー!

結城:……誰だ? 花衣(はなえ)じゃないな?

舞薗:初めまして、結城(ゆうき)さん。
   マイ・ネーム・イズ、ヒメキ・マイゾノ。
   あなたが話したがっていた相手ですよ~

結城:どういうことだ!?
   どうして、花衣(はなえ)の電話でかけてきている?!

舞薗:サプライス、大成功!
   てか、そんなのわかりきっているじゃないですか~
   だって、今、花衣(はなえ)さんの近くいますもん。

結城:ふざけるな!
   花衣(はなえ)は無事なんだろうな?

舞薗:安心してください。
   もちろん、生きています。
   手足を(しば)りつけられていますけどね。
   ねえ、結城(ゆうき)さん。
   少しお話ししませんか?

結城:話だと?

舞薗:はい、楽しい楽しいお話です。
   本当だったら、直接お会いしてお話したいのですけど……
   でも、そしたら……私のモノにしたくて殺したくなります。

結城:くっ! それがお前の本性(ほんしょう)か!

舞薗:これが私です、本当の私です。

結城:ひとつ、教えて欲しい。
   なぜ自殺であることにこだわる。

舞薗:……結城(ゆうき)さんは、イシュタムを知っていますか?

結城:それは薬の名前――

舞薗:ぶー! 残念、半分不正解です。
   確かにお薬の名前ですけど、私が今聞きたい事は違います。
   イシュタムは、マヤ神話に登場する女神の名前です。
   死者を楽園に導く役割を持ち、〝自殺〟を(つかさど)るんです。

結城:自殺……

舞薗:楽園に行けるのは、聖職者(せいしょくしゃ)生贄(いけにえ)戦死者(せんししゃ)、お産で死んだ女性、
   そして――首を()って死んだヒトでした。

結城:っつ!

舞薗:イシュタムは彼らの(たましい)巨大樹(きょだいじゅ)「ヤシュチェ」を中心とした楽園へと導くことで、
   すべての欲望(よくぼう)から開放されます。
   要は、生による苦しみから解放されるのです!
   私、感動しちゃいました!!
   だから……同じことをしようかなって。
   苦しいのなら解放してあげようかなって。

結城:なら、どうやって彼らを殺した?

舞薗:私は、ただ(さそ)っただけ、それだけです。
   私は昔から無意識(むいしき)に他人を(まど)わすことが得意なんですよ。
   (くわ)しい仕組みはわからないんですけど、精神科の先生に言われました。
   ――「キミを見ていると、キミの言う事を聞きたくなる」って
   だから、試してみたくなりました。
   何て言ったと思います?

結城:……まさか。

舞薗:「先生、死んで?」

結城:っつ!

舞薗:そしたら、あーら、不思議!
   先生が自分で首を吊って死んじゃいました、笑顔のままで。

結城:狂っている!
   キミには罪悪感(ざいあくかん)というものがないか!!

舞園:そんなものがあったら、こんなことはしていないと思いますよ?
   はぁ、結城(ゆうき)さん。
   一目惚(ひとめ)れしちゃったんですから、そんな残念な事
   を言わないでください。

結城:はっ?

舞園:聞こえませんでしたか?
   大事な事なのでもう1回言いますね
   ――私、貴方に一目惚(ひとめぼ)れしちゃったんです。
   貴方を私のものにしたかった。
   だから、邪魔(じゃま)南羽良(みなはら)さんを殺したんです。

結城:ふざけるなああああ!!

舞園:うふふふふふ、あはははははははははは!!
   その声を聴きたかった!!
   だけど、残念。
   そろそろ、お客様がやって来る時間だから。
   花衣(はなえ)さんと、村瀬(むらせ)さんの相手をしたら会いに行くからね。
   Have a nice day♪

結城:ま、待て! 切れた……くそ!!
   今、村瀬(むらせ)の名前を……まずい!
   頼む、出てくれ! お願いだから!!
   (つま)がらない……クソ!!

【Scene03】

<舞薗がいるとある倉庫に村瀬の車が止まる。焦った表情で村瀬が車から出てくる。>

村瀬:ここに花ちゃんが……それに舞薗(まいぞの)も……
   確実に(わな)と理解できるけど……でも、好機だ。

篠宮N:村瀬(むらせ)の元にも舞薗(まいぞの)から連絡が来た。
    これが(わな)であることを理解しておきながらも、彼は
    彼女が指定した倉庫へとやってきた。

村瀬:あちらからわざわざ誘い出してきたんだ。
   ……だったら、敢えて乗ってやるよ。

篠宮N:そう(つぶや)いて、彼は扉を開いた。
    倉庫内は(わず)かに(とも)された電球以外の光がないと
    真っ暗闇に包まれた世界。
    そして――

村瀬:花ちゃん!

篠宮N:倒れている花衣(はなえ)を見つけた村瀬(むらせ)は、彼女の元へと駆け込んだ。

村瀬:おい! しっかりしろ!!
   泉美(いずみ)……頼むから、しっかりしろよ!!

花衣:うっ……あっ……

村瀬:泉美(いずみ)!!

花衣:むら、せ……?

村瀬:良かった……生きてる。

花衣:私は、一体――

村瀬:倒れていたんだ、ここに。

花衣:そうか……っつ!
   こんなことをしている場合じゃない!
   舞薗(まいぞの)が! 舞薗(まいぞの) 姫喜(ひめき)が!!

舞薗:はーい、呼びましたかー?

村瀬:君が、舞薗(まいぞの) 姫喜(ひめき)か……?

舞薗:はい、そうです。
   よろしくお願いしますね、村瀬(むらせ) 修史(しゅうじ)さん。

村瀬:へぇ……俺を知っているわけ?

舞薗:勿論(もちろん)ですよ。
   ただの女子高生だと思わないでくださいね。
   こそこそ周りを()ぎまわるネズミさんを捕まえるのは
   昔から得意ですから。

村瀬:おいおい、JKとは思えない殺気の持ち主だ。
   なるほど……これなら納得だよ。
   多くの人間を殺すことが出来るね、キミは。

舞薗:あら? それは、いわゆる猟犬(りょうけん)嗅覚(きゅうかく)というものですか?
   とは言っても、村瀬(むらせ)さんの場合は元が付きますが。

村瀬:生意気(なまいき)なことを言うじゃないか。

花衣:村瀬(むらせ)! 彼女とあんまり話すな!!

村瀬:えっ? 何を言って――

舞薗:余計なことを言わないで、花衣(はなえ)さん。

篠宮N:突然のことだった。
    舞薗(まいぞの)が鉄パイプで村瀬(むらせ)(なぐ)りつけてきた。
    予想外のことでかわすことが出来ず、彼の脇腹(わきばら)直撃(ちょくげき)する。

村瀬:ぐうっ!

花衣:村瀬(むらせ)!!

舞薗:よそ見をしている場合じゃないですよ。
   まずはあなたからです、花衣(はなえ) 泉美(いずみ)さん!

篠宮N:すかさず、舞薗(まいぞの)は鉄パイプで花衣(はなえ)の足を打ち付ける。

花衣:ああ!!

篠宮N:悲痛な声を挙げ、その場で倒れ込んだ。
    動けることが出来なくなってしまった花衣(はなえ)の元に、
    舞薗(まいぞの)は鉄パイプをひきずりながら徐々に近づいてくる。
   『死』を覚悟(かくご)するも、舞薗(まいぞの)がとった行動は
    彼女に予想外なものだった。
    耳元で舞薗(まいぞの)(ささや)き、バタフライナイフを花衣(はなえ)
    渡すと彼女から離れた。

村瀬:クソ……!
   泉美(いずみ)に何をしやがった……

舞薗:まずはひとつです。

村瀬:ひとつ?

舞薗:命の(ともしび)がひとつ消えるんです。
   花衣(はなえ)さんは今から、バタフライナイフで自らの頸動脈を切ります。
   大量出血で死んでしまうでしょうね。

村瀬:そんなことさせて――

舞薗:次は村瀬(むらせ)さんの番。

篠宮N:そう言って、舞薗(まいぞの)村瀬(むらせ)の耳元で(ささや)いた。
    すると、村瀬(むらせ)に不思議な感覚が襲い掛かる
    ――自分が欲情(よくじょう)している感覚が。
   けれども、それは性欲とは似て非なるもの。

村瀬:あぁ……死にたい……

篠宮N:希死念慮(きしねんりょ)が現れ、それは徐々に強くなってくる。

村瀬:早く……死なないと……

舞薗:うふふ……はい、もうひと――キャ!

花衣:村瀬(むらせ)!!

篠宮N:花衣(はなえ)は、村瀬(むらせ)に思いっきりビンタした。

村瀬:いず、み……?
   俺、今……

花衣:正気に戻ったか、大馬鹿者。
   いいか、よく聞くんだ……今すぐ逃げろ。

村瀬:でも、お前を連れて――

花衣:……私はもうダメだ。
   おまえはセイドウを、助けるために今すぐ逃げるんだ……!

村瀬:何を言っているんだよ! 一緒に!!

花衣:いいから!
   ……私は、もう、歩けない。
   見ろ、足を。

村瀬:えっ……血が……

花衣:お前も感じただろう……彼女にささやかれることで死にたいという
   気持ちが強くなった。
   どうにも止められない。
   だから……足をナイフで思いっきり刺した。
   ちょっとやりすぎたけど、な……アハハ……

村瀬:あっ……あっ……

花衣:行くんだ……まだ間に合うはずだ。
   今だったら、セイドウを死なすことだけは回避できるはずだ。
   ……悔しいが、私たちは見誤ったんだ。
   今回の事件は、手を出すべきじゃなかったんだ。
   こうなってしまったのも、全部、私の責任だ。  
   だから、頼む言ってくれ……

村瀬:っつ! くそおおおおおおお!!!

篠宮N:そう言って村瀬(むらせ)は倉庫から逃げるように出た。

舞薗:もう終わりましたか?
   突き飛ばされて、すっごく痛かったんですけど。

花衣:すまなかったな……こうするしかなかった。

舞薗:別にいいですけど……かすり傷程度でしたし。
   ……上手くいったと思っているようですけど、無駄ですよ。
   村瀬(むらせ)さん、この後、死にますよ。

花衣:それでも、最後まで諦めない……お前の思い通りにさせてたまるか……

舞薗:……ムカつく。
   決めました、花衣(はなえ)さん。
   あなたは私が殺してあげます。

花衣:やれるものなら、やってみろ。

花衣M:とは言ったけど、私はどうやらここまでのようだ。
    すまない、2人とも。
    頼む……目の前の悪魔を必ず――

【Scene04】

結城:どうしたらいい、あいつらは一体どこにいるんだ?
   俺は一体どうしたら……携帯が……もしもし?

篠宮:結城(ゆうき)さん、篠宮(しのみや)です。
   村瀬(むらせ)さんに連絡がつかなくて、それで
   結城(ゆうき)さんにお電話をしたんですが――

結城:先生! 俺はどうしたら……

篠宮:落ち着いてください、何があったんですか?

結城:舞薗(まいぞの)が……舞薗(まいぞの) 姫喜(ひめき)花衣(はなえ)村瀬(むらせ)を……

篠宮:えっ?

結城:まだ生死はわかっていません。
   けれど、花衣(はなえ)拉致(らち)されて、
   村瀬(むらせ)はそれを(えさ)におびき出された可能性があります。
   舞薗(まいぞの)は、他人を自殺させることが出来ます。
   このままではあいつ等が……えっ?

篠宮:どうしました?

結城:パソコンにメールが……送り主は……村瀬(むらせ)!?
   なんだ、この動画ファイルは……

篠宮N:添付(てんぷ)されていた動画ファイルを再生する。
    そこには、麻縄(あさなわ)椅子(いす)に身体を縛られた花衣(はなえ) 泉美(いずみ)の姿。
    顔は苦悶(くもん)の表情を浮かべ、荒い息を立てていた。

舞薗:はーい、見ていますかー?
   結城(ゆうき)さーん?

結城:舞薗(まいぞの)!?

舞薗:今から見ていただきますのは、花衣(はなえ) 泉美(いずみ)さんの
   一世一代(いっせいいちだい)の大舞台です!
   ジャジャジャーン!

篠宮N:モニターに映っていた花衣(はなえ)姿(すがた)驚愕(きょうがく)
    憤怒(ふんぬ)の表情を浮かべる結城(ゆうき)
    花衣(はなえ)(てのひら)に多数の(クギ)が打ちつけられ、
    太腿(ふともも)にはバタフライナイフが刺されており、
    足元には血溜まりができていた。

結城:花衣(はなえ)!!

舞園:花衣(はなえ)さんは決死の覚悟(かくご)村瀬(むらせ)さんを逃し、
   結城さん、貴方を助けようとしました。
   でも、そんなことは許さない。
   私、言いましたよね? 一目惚(ひとめぼ)れしたって。
   私、(ねら)った獲物(えもの)は地の果てまで追いかけます。
   だから、貴方が逃げないように――花衣(はなえ)さんを殺します。
   私、自らの手で。

結城:やめろ……やめてくれ!!

舞園:よーく、見ていてくださいね。
   イエス・キリストの磔刑(たっけい)のように散々痛ぶったので、
   最後は楽にしてあげます。でも、すごいんですよ?
   命乞(いのちご)いのひとつや、泣き叫んでくれたら助けてあげようかなって
   思ったんですけど……我慢しちゃうんだもんなぁ……

花衣:……誰が貴様なんかに(くっ)してやるもんか。
   命乞(いのちご)いをするなら……死んだ、方が……マシだ……

舞園:へぇ……それじゃあ、殺しますね。
   ご要望の通りに。

篠宮N:そう言って舞園(まいぞの)花衣(はなえ)の髪
    を(つか)んで顔を上に向ける。
    ()き出しになった花衣(はなえ)首筋(くびすじ)にカミソリを突きつける。

舞園:最期に何か一言ありますか?

花衣:……フッ。

舞園:おかしなヒト、笑うなんて。

花衣:くたばれ。

篠宮N:不敵(ふてき)な笑みを浮かべた後、花衣(はなえ)は首を切られて絶命した。
    それと同時に動画は終了した。
    電話口から篠宮(しのみや)が何度も結城(ゆうき)を呼びかけるが、
    彼の耳には声が届かない。
    携帯が手から落ち、彼の身体が怒りで震える。

結城:あああああああああああ!!

篠宮N:怒り(さけ)び、机に置いてあったものを投げ飛ばす。
    やがて、徐々に疲れが出るにつれて冷静になっていく。

結城:はぁ……はぁ……行かないと……アイツを捕まえに……

篠宮N:マンションの駐車場に向かうと、そこ――

村瀬:セイ、ドウ……

結城:村瀬(むらせ)! 無事だったのか!
   おい! しっかりしろ!!

村瀬:へへっ……花ちゃんが助けてくれたから……
   こんな醜態(しゅうたい)をさらすことになっちゃったけどさ……
   それよりもコレ……

結城:カギ……お前の車のか?

村瀬:逃げろ……

結城:えっ?

村瀬:逃げ、るん、だ……出来るだけ、遠くに……

結城:何を言っているんだ、お前……

村瀬:お前を、生かすためだ……! セイドウ……!!
   そのために、花ちゃん……泉美(いずみ)と俺は犠牲(ぎせい)になるんだ……!!

結城:なあ、お前どうしたんだよ!
   舞薗(まいぞの)に何をされたんだ!!

村瀬:あの女はおかしいよ。
   いや……おかしいのは俺だ。
   アイツに(ささや)かれただけで()っちまった。
   すると、どうだ……馬鹿みたいに欲情が収まらない……
   同時に「死にたい」っていう気持ちが湧いてくるんだよ
   ああ……ああ……もうダメだ、我慢出来ねえよぉ……

篠宮N:そう言って、村瀬(むらせ)は腰につけたホルスターから拳銃を取り出す。
    そして、それを自身のこめかみにもっていった。

結城:お、おい……やめろ……馬鹿な真似(まね)はよせ

村瀬:……セイドウ。

結城:な、なんだ……

村瀬:……悪い、就職先は別のところにしてくれ。

篠宮N:そして、村瀬(むらせ)は引き金を引いた。
    頭から()き出す鮮血(せんけつ)
    硝煙(しょうえん)と血の(かお)りが(あた)りを(ただよ)う。

結城:村瀬(むらせ)……おい、起きろよ……起きろよ!!
   どうして笑顔なんだよ!!
   おかしいだろ……クソ……くそおおおおおおお……!!!

篠宮:結城(ゆうき)さん!!

結城:せ、んせい……?

篠宮:早く乗ってください!

結城:先生、でも……村瀬(むらせ)が……

篠宮:何、馬鹿なことを言っているんですか!!
   舞薗(まいぞの) 姫喜(ひめき)が警察を呼びました!
   このままだと貴方が彼女の罪を(かぶ)ることになる!!
   早く!!

結城:あっ、ああ……わかりました……
  (※小声で)村瀬(むらせ)、すまない……本当にすまない……

【Scene05】

篠宮:どうぞ。
   とりあえず、コーヒーを飲んで落ち着けましょう。

結城:……はい。

篠宮:すいません……何も役に立てませんでした。

結城:何を言っているんですか、先生のせいじゃないんですよ。

篠宮:いえ、元を言えば、彼女を見過ごしてしまった事が今回の結果です。
   私が、彼女から逃げなければこんな事にならなかったのかもしれません。

結城:何を言って――

篠宮:これを見てください。

結城:これは……写真?

篠宮:アメリカの大学にいた時の写真です。

結城:――なっ!
   隣にいるのは……!!

篠宮:舞薗(まいぞの) 姫喜(ひめき)です。

結城:あんた、まさか――

篠宮:誤解しないでください!
   彼女とは連絡をとっていません!!
   日本に戻って来てから、ずっと!!

結城:……教えてもらってもいいですか?
   舞薗(まいぞの) 姫喜(ひめき)との〝本当の〟関係性を。

篠宮:はい……ご存じの通り、彼女とは同じ大学でした。
   最初から知り合いという訳ではありません。
   ですが、彼女は〝天才〟として学内で有名人でしたからね。
   知らないヒトは珍しいぐらいでした。
   多くの学生が彼女の周りにいつもいました。
   ……でも、しばらくすると〝ある(うわさ)〟が流れてきたんです。

結城:(うわさ)

篠宮:……ファム・ファタール。
   彼女はファム・ファタールだ、って

結城:ファム・ファタールって確か……男を破滅(はめつ)させる魔性(ましょう)の女、ですよね?

篠宮:はい。
   でも、彼女の場合は本来の意味とは異なります。
   オブラートと言うか、皮肉と言うか……
   彼女と付き合った男性は全員死んだんです。

結城:全員、自殺ですか?

篠宮:はい……誰もが「彼女が殺した」、そう思っていました。
   しかし、警察の捜査が入るも一切の手がかりが掴めない。
   やがて警察は(さじ)を投げ、それによって彼女の潔白(けっぱく)は証明されました。
   けれども、周りは彼女と関わることを避けました。
   「彼女に興味を持ってしまったら自分は殺される」
   それは学生だけじゃなく、教員もでした。
   彼女は孤独になりました。
   けれども、彼女は笑顔だったんです。
   その曇りない笑顔が……綺麗だったんです……

結城:まさか、あんた……

篠宮:はい、私は……舞園(まいぞの) 姫貴(ひめき)を愛してしまったんです……!!
   そして、私は彼女が殺人鬼である事を知り、彼女の凶行(きょうこう)を止めようとしなかった。
   彼女が殺人を犯した証拠を、私は――

結城:ふざけるなああああ!!

篠宮:ぐぅ!!

結城:アンタが、アンタが!!
   どうして止めなかったんだ?!
   アンタが彼女の罪を(あば)けばこんなことにはならなかった!!
   花衣(はなえ)も! 村瀬(むらせ)も!!
   それに……っつ!
   愛したヒトを……死なすことはなかった、のに……

篠宮:……南羽良(みなはら)さん、ですよね?
   付き合っていたんですね……

結城:そうだ……
   こんな仕事しか取り柄のない、面白みがない男を愛してくれたんだ。
   彼女と一緒に居たいと思った。
   南羽良(みなはら)が……(かえで)が死ぬ二日後に一緒に旅行をする予定だったんだ……
   そこで彼女にプロポーズをしようって……
   わかっている……わかっているんだ……
   アンタに怒りをぶつけてもどうにもならないと言うことは……

篠宮:待ってください……どこに行くんですか……!

結城:舞園(まいぞの)のところだ。
   直接決着をつけてくる。

篠宮:彼女の居場所を知っているんですか?

結城:……目星はついている。
   あそこに現れるだろう、南羽良(みなはら)が自殺したボロアパートに。
   きっと来るはずだ。

篠宮:だめです! 行っては!!

結城:……離してくれ。

篠宮:このまま行けば、貴方まで死んでしまいます!!
   彼女はきっと貴方を殺します!
   まだ、貴方は引き返すことができる!!
   だから、ぐっ!!

結城:……悪い、もう放っておいてくれないか。

篠宮:かはっ……っつ……

結城:鳩尾(みぞおち)に一発食らわせたから、(しばら)くは動けないだろう。
   ……先生、アンタは引き返すことができるって言った。
   確かに村瀬(むらせ)花衣(はなえ)犠牲(ぎせい)になって俺を守ってくれたのかもしれない。
   だけど、南羽良(みなはら)が死んでから俺は立ち止まったままだったんだ。
   いつまでも情けなく、現実に目を()らした。
   もう引き返すことなんか出来ないんだよ。
   それはアンタも一緒だよ。

篠宮:えっ?

結城:俺たちは熱病(ねつびょう)(おか)されたんだろうな。
   死に至るぐらいのな。

村瀬N:そう言って倒れている篠宮(しのみや)の元に、一挺(いっちょう)拳銃(けんじゅう)を置いた。
    死んだ村瀬(むらせ) 修史(しゅうじ)拳銃(けんじゅう)で、残り3発の銃弾(じゅうだん)装填(そうてん)されていた。

結城:渡しておく。
   使うかどうかアンタの自由だ。
   世話になった。

村瀬N:バタンと扉が閉まり、部屋が静寂に包まれる。
    やがて嗚咽(おえつ)が聴こえてきた。

篠宮:私が……逃げた、からだ……
   私が、彼女に……自分に向き合わなかったからだ……
   ううっ……うわあああああああああ!!!

【Scene06】

村瀬N:ふらふらとした足取りで、結城(ゆうき) 正道(まさみち)は歩き続ける。
    舞園(まいぞの) 姫貴(ひめき)によって彼は指名手配の身となっていた。
    彼女の罪を、彼のものへとされたのだ。
    捕まれば死刑(しけい)(まぬが)れないだろう。
    神経が()り減らされる。
    そして、やっとの思いで一棟(いっとう)の木造づくりのアパートに辿(たど)り着いた。
    二階の(すみ)の部屋に――南羽良(みなはら) (かえで)が自殺した場所に入る。
    あの時は散らかっていたけれど、今は鑑識(かんしき)現場検証(げんばけんしょう)
    で整理されていた。
    疲労困憊(ひろうこんぱい)結城(ゆうき)はその場で座り込む。

結城M:疲れた……

村瀬N:目を閉じる。
    すると、懐かしい記憶が呼び起こされた。

南羽良:先輩!

結城:えっ……あれ……?
   南羽良(みなはら)、なの、か?

南羽良:なーに、寝惚けているんですか?
    それよりもお仕事、終わりました?
    あっ、もう終わっているじゃないですかー!
    行きましょ!

結城:えっ、どこに?

南羽良:なにって……
    先輩と一緒に行きたいって言ってたフレンチレストランですよ!
    奇跡的に早く仕事が終わったんですから!
    早く! 早く!!

結城:あぁ……わかった、すぐ用意する。

結城N:思い出した。
    確か事件の1週間前に彼女とデートをした日だ。
    あの時は奇跡的(きせきてき)に仕事が早く終わって……
    でも、どうして今になって……あぁ、夢を見ているのか、俺は。

村瀬N:舞台は予約していたフレンチレストランへ。
    ホテルの高層階(こうそうかい)にあってか、(きら)びやかな都内
    の夜景を、バイオリンの心地よい演奏を楽しみながら
    望むことが出来た。

南羽良:先輩、すごく美味しそうですよ!

結城:そりゃあ、予約が中々取れないところだからな。
   一番高いコースを頼んでおいたから。

南羽良:やったー! 楽しみ!!

結城:…………なあ、(かえで)

南羽良:どうしたんですか? 先輩。

結城M:これは夢だ。だからこそ聞いてみたかった。

結城:どうして俺のことを好きになったんだ?

南羽良:えっ?

結城:俺はつまらない人間だ。
   正直仕事しか()()のない男だ。
   だから、そんな俺と一緒にーー

南羽良:そんなこと言わないでください。

結城:えっ?

南羽良:私は、そんな先輩の言葉を聞きたくありません。
    それに、私の好きな人の悪口を言わないでください。

結城:す、すまん。

南羽良:誰かを好きになるのに、面白いかどうかなんて関係ないですよ。
    前に言ってましたよね?
    「全ては、その本人が強い理想を()って
     行動し続けた結果にすぎない」
    「愛する者ができること。何かを始めるということ。
     誰かを傷つけること。何かを終わらせるということ。」
    「だから善とは、その何かを続けること」
    「悪とは、その何かを終わらせること」
    不思議な感じがしました。
    ただ単純に善悪を判断しない。
    だからこそ、興味を持ったんです。
    あなたの事をもっと知りたい。
    そしたら、いつの間にか大好きになってしまいました。
    それでいいじゃないですか。
    ヒトを好きになるのに決まった理由なんてないんです。

結城:(かえで)……。

南羽良:――って、なんか恥ずかしいですね!
    なんか偉そうに語っちゃいました!

結城:……ありがとう。

南羽良:えっ?

結城:本当にありがとう。

南羽良:ふふっ、大袈裟ですよ。
    先輩……いえ、正道(まさみち)さん。

【Scene07】

結城:……やっぱり、夢か。
   今、何時だ?
   そんなに時間は経っていないのか……

舞園:こんにちはー
   ねぼすけさん。

結城:――来たか。

舞園:あら、意外と冷静でビックリ。
   今までの貴方(あなた)だったら、怒り(くる)うもんだと思っていました!
   どうしちゃったんですか?

結城:頭を冷やす時間があっただけだ。
   それに……お前を待っていたからな。

舞園:私が来るのを待って頂けたんですね、嬉しい。
   でも、こんな辛気臭(しんきくさ)い所じゃなかったら良かったな~
   そう思いません?

結城:そうだな。
   できれば、出会いたくなかった。

舞園:それはショック。
   私は、結城(ゆうき)さんに出会えて嬉しいのにな〜
   貴方と一緒だったら普通の女の子に戻れたかもしれないのに

結城:普通の女の子、か。
   それは本心か?

舞園:えぇ、勿論(もちろん)

結城:その言葉を篠宮(しのみや)にも言ったのか

舞園:……やっぱり。
   (はるか)も関わっているんだ。

結城:やはりな……舞薗(まいぞの)、お前は殺人鬼だ。
   篠宮(しのみや)の名前を出したときに顔色が変わった。
   それに人間の()をしていない。
   今まで捕まえてきた犯罪者たち……いや、
   奴ら以上の凶暴性(きょうぼうせい)がある。

舞薗:それで、私を殺すんですか?
   そんなちっぽけな小銃(しょうじゅう)で。
   いいですよ。
   どうぞ殺してください、出来るものなら

結城:……舞薗(まいぞの)
   お前は、『善』とは何なのか、わかるか。

舞薗:質問を質問で返しちゃってごめんなさい。
   私は、それを聞くために此処に来ました。
   ――結城(ゆうき) 正道(まさみち)さん。
   『善』、もしくは『正義』とは何ですか?

結城:――愛する者ができること、何かを始めるということ。
   だからこそ、『善』とは――その何かを続けることだ。

舞薗:それじゃあ、『悪』とはなんですか?

結城:――誰かを傷つけること、何かを終わらせるということ。
   すなわち、『悪』とは――終わらせることだ。
   だから、他者を殺すことは『悪』なんだ。

舞薗:そうですか……でも、その答えは不完全なモノですね。

結城:…………。

舞薗:けれど……人間臭くて良いですね。
   その不完全さが、貴方を表している……
   本当に真っすぐなヒト……あぁ、そんなところが大好きです。
   私、自分が間違いを犯したなんて一度も思ったことが無いんです。

結城:……そうか、わかった。

舞薗:引鉄(ひきがね)を引いたら最後ですよ?

結城:そうだな……終わりにしよう。

舞薗:ふふっ、さようなら大好きな人、永遠に。

結城:最後までお前は欺瞞(ぎまん)に満ちているな。

村瀬N:一発の銃声が鳴り響き、舞台は暗転する。

【Scene08】

花衣N:雨が降頻(ふりしき)(くも)り空。
    雨の勢いは強くなり、窓に打ち付けられる音が聞こえてくる。
    篠宮(しのみや) (はるか)黄昏(たそがれ)の表情を浮かべ、窓を眺めていた。
   テーブルには朝食の準備をしていたのだろうか。
   一枚の皿にはバターが塗られたクロワッサン、もう一枚の皿
   には1本のバナナが置かれていた。
   しかし、それには一切手を付けていなかった。
   突然、部屋の(とびら)が開かれる。
   そこには――

篠宮:待っていましたよ……姫喜(ひめき)
   きっと来ると思っていましたから。

舞薗:お久しぶり~
   元気にしていた?
   変わらないね。

篠宮:ええ……貴方も〝あの時〟と変わらないんですね。

舞薗:変わるはずないもの。
   変われるはずがないもの。
   一体、どういうつもりなの?

篠宮:どういうつもりとは?

舞薗:また貴方は私の邪魔をした。

篠宮:……殺したのですか? 結城(ゆうき) 正道(まさみち)を。

舞薗:ご想像におまかせするわ。

篠宮:そうですか……左肩、撃たれたんですね。
   コートで隠していてもわかりますよ。
   そして珍しいですね。
   あなたは興奮していて、動揺もしている。

舞薗:その通りよ、(はるか)
   あの時はしなかったけど、今思うとやるべきだったわ。
   ――他のみんなと同じ様に殺してあげる。

篠宮:わざわざ、あなたの手を汚さなくとも……
   その前にひとつお話をしませんか?
   元恋人――いえ、幼馴染(おさななじみ)のよしみ、ということで。

舞薗:ええ、いいわ。

篠宮:ありがとうございます。
   ……姫貴(ひめき)は、J・D・サリンジャーという作家を知っていますか?

舞薗:もちろん、知っているわ。
   『ライ麦畑でつかまえて』、傑作(けっさく)よね。

篠宮:それじゃあ、『バナナフィッシュにうってつけの日』は?

舞薗:――それは知らない。

篠宮:物語の主人公、シーモア・グラースという男が、ビーチで黄色の水着を着た少女、
   シビル・カーペンターに出会うことで話が始まります。
   親しくなった彼ら、そこでシーモアはある提案をします。
   ――バナナフィッシュをつかまえよう、と。
   そして、彼は付け加えてこう言います。
   ――今日はバナナフィッシュにうってつけの日だ、と。
   2人はバナナフィッシュを捕まえるために海に入り、
   やがてシビルが「バナナフィッシュが一匹見えた」と言いました。
   海を出た2人、シーモアはシビルの土踏まずにキスをし、
   自らが泊まっているホテルへと戻っていきました。
   彼が戻ると、部屋には彼の妻が眠っていました。
   彼女を見つめながらシーモアは……何をしたと思いますか?

舞薗:――あなたの悪い癖よ。
   そんなこと知る筈もないじゃない。
   あらすじもよくわからないわ。

篠宮:あはは、すいません。
   そうですね……その通りですね――これが答えです。

花衣N:1発の銃声が鳴り響いた。
    それは、舞薗(まいぞの) 姫喜(ひめき)の胸を(つらぬ)く。
    そして、遅れてもう1発が鳴り響いた。
    今度は彼女の(ひたい)(つらぬ)いた。
    糸が切れてしまったマリオネットのように、ドサッと音を立てて倒れ込んだ。
    血だまりが徐々に出来てくる。

篠宮:――「篠宮(しのみや) (はるか)が自分を殺す筈がないだろう」
   きっと、貴女はそう思ったのでしょう。
   ……でも、私は(つぐな)わなきゃいけないんです。
   あなたを救わなかった罪を、結城さん達を殺してしまった罪を。
   だから――。

花衣N:そう言って、彼は拳銃を自身のこめかみにつきつける。
    そして、彼は苦笑いを浮かべた。

篠宮:……結城(ゆうき)さん、本当に私たちは……死に至る熱病に
   犯されていたんですね。
   なんとまあ、最悪な結末……三文小説(さんもんしょうせつ)としては
   上出来かもしれないけど……あぁ、本当に最悪だ。

花衣N:そして、銃声は鳴り響いた――

(END)

死に至る熱病 後編:正義と悪のレゾンデートル

この作品はフィクションです。作中で描写される人物、出来事、土地と、その名前は架空のものであり、土地、名前、人物、または過去の人物、商品、法人とのいかなる類似あるいは一致も、全くの偶然であり意図しないものです。

This is a work of fiction. The characters, incidents and locations portrayed and the names herein are fictitious and any similarity to or identification with the location, name, character or history of any person, product or entity is entirely coincidental and unintentional.

死に至る熱病 後編:正義と悪のレゾンデートル

  • 自由詩
  • 短編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2022-06-04

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND
  1. 台本概要
  2. 登場人物
  3. 上演貼り付けテンプレート
  4. 【アバンタイトル】
  5. 【Scene01】
  6. 【Scene02】
  7. 【Scene03】
  8. 【Scene04】
  9. 【Scene05】
  10. 【Scene06】
  11. 【Scene07】
  12. 【Scene08】