初雪

 雪、降り給ふ。空より落ち舞ふ姿、いとうつくしうていたり。
 ある人、白く舞ひ降りつつ独り思ひて曰く、「地上へ降らましかば、雪蟲とたはむれたし。草には蛍ぞ飛び違ひたるなり。黒曜石爛々とし、星々、月共に下をこそ見守りたるらし。いとうつくしうあるぬべし」しかれども、北風、轟轟と吹き散らし、乾乾(こうこう)と笑ひてぞ去にける。ある人、叫び給ひけれども透き通る音鳴るばかりなり。つひに下へ落ち、アスファルトを転(まろ)び給ふ。
「あな。焼け死ぬべし。助け給へ。」ある人甚だしく声散らし給ふ。
「いかに、我何時虚言、または罪(とが)つかまつるか。いと侘しきこと、侘しきことなり。あはれ、心憂し。」
 そうして絶え入り給ふ。
 同じ様にアスファルトを焼け転(まろ)ぶ姿、幾万もあり。皆なべて叫びまどひ遊ばせども、皆人なべて焼け失せ給ふ。
 下へ横になりわたる透きとほる御亡骸積まれ、その上へ次々と舞ひ降りてはあなやと溶け給ふ。そこへまた新参入り給ひていけば、きりなし。すなはち一面白く染まりて、初雪となりけり。これをぞ人はあはれがるか。あまたの声音静かに響き給ひつ。
 雪とは、その御かたち白く潔白なれど、その心に皆塵芥住みたり。ある人方が声はいかなるものか、いさ、誰も知らず。

初雪

初雪

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青年向け
更新日
登録日
2022-06-03

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