卯の花腐し

 ログインできないままの、SNSの存在意義。恋愛ドラマをきらう、アマナツが、王道的な学園恋愛シミュレーションゲームにのめりこんでいるあいだに、ほどほどに世界を呪うのは、美術部の吾妻(あがつま)せんぱい。日焼け止めクリームを塗りたくって、妙に青白い肌で、アマナツと吾妻せんぱいのいわゆる、ヲタクな会話をきいていると、スマホがなんだか気の抜けちゃうメロディとともに、メッセージの受信を告げた。はい。あのひとから。
 春。
 おわりが近いのか、花を散らすように雨が降ってる。
 雨は土に染みわたり、土のなかの生命にとどいて、夏のじゅんびをはじめる頃か。
 いつものカフェで、まっているという。あのひと。
 写真集を借りている。あのひとから。廃墟の。いまはもう、朽ち果て、錆び、腐り、蔓植物におおわれ、色褪せた建造物の、写真。そこにいたはずの、だれかはもうおらず、ぽつんと、ボールペンの先端で一突きされた程度のさみしさを、感じる。
 アマナツと吾妻せんぱいが、四月からはじまったアニメのはなしをしていて、わたしはあのひとに返信をして、雨は、桜の花びらを容赦なく打ち落とし、けれど、まだ眠っているものたちの命の恵みとなる。

卯の花腐し

卯の花腐し

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-04-18

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