水界
りゆうのない、衝動的な、横暴にも近い、愛だった。こどもたちが微笑み、ジンベエザメがゆうゆうと泳ぐ、おおきな水槽の、つめたい表面を、撫でる。無機物。けれど、うっすらと伝わってくる、のは、海洋生物たちの、いきてる音だ。息をはく。ちいさな泡ができては、きえる。水のなかに、ずっと沈んでいるときみたいな気分で、こすりつける。ひたい。あのこたちは、みんな、なにをみているのだろう。
二十四時間、だれも、なにも、想わないようになればいいのに、それでは、ぼくら、にんげんではなくなるのかもしんないけれど、ときには喜怒哀楽だの、心だのに直結する、すべての回路を、断ち切りたい瞬間もあるのだ。
深夜の交差点で、みあげた春の月。
やわらかなからだのこどもたちが、眠りかけの街に、花びらをまいている。
水界