プラス / マイナス

 やわらかいだけの、きみ。空からきえた、月の一部は、みずうみの底で横たわり、含まれる何らかの生命がさけんでいるのだろうか、ときどき、ふるえる。
 波打つ、湖面。
 わたしたち、殖えていたはずなのに、いつのまにか、へってた。

 あたらしい、いのちがあらわれるとき。だれもがみんな、涙を流す。喜び、尊いのだと、喝采する。世界の、ふいにできる歪みの、すきまには、けれど、ドス黒い物体。が。みちみちに詰まっていて、それを覗いたものはもれなく、吐き気になやまされるのだと、あのひとは言う。
 わたしから分裂した、もうひとりのわたしは、コーヒーよりも紅茶が好きで、わたしは動物園が好きだけれど、もうひとりのわたしは、きらいだった。
 支配されることを、きみは拒んで、あのひとは、月の生き残りである、新人類の方が、あなたらより頑健(タフ)であるのだと、おしえてくれて、わたしは、でも、正直、どうでもよかった。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-04-09

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