真夜中の愁い
フルーツサンドでは、いちごが好きだそうなので、サクマは、みかんサンドをじっと見つめて、けれど、ノアに、おいしいよと言われて、おそるおそるといった感じで、手にとった。レイトショーのあとの、信号機が、黄信号の点滅をしはじめた頃で、白線だけを踏んで一対の少年少女が、横断歩道を渡っている。午前四時までやっている、喫茶店で、わたしと、サクマと、ノアは、フルーツサンドと、コーヒーと、サクマはアイスティーで、映画の感想を語り合う、という、以前はよく行われていたそれを、ひさしくやっていなかったために、なんだかとても、ふしぎな心持ちで、いる。喫茶店には、いちごサンドはなく、みかん、もしくは、キウイのみであった。だれかの吸っている、たばこの香りが、わたしたちの席まで漂ってきて、ああ、喫茶店にいるんだ、などと、しみじみ感じ入っているあいだに、サクマは、みかんサンドを、ふつうにおいしいじゃんと言って、ぱくぱくと食べている。コーヒーのおかわりをもらい、角砂糖を溶かし、ミルクをまわしいれて、かきまぜていると、ノアが、口角を緩く上げて、まるで、我が子を愛でる母親のような表情で、サクマをながめていることに気づき、ふと、甘やかでありながら、呼吸のしにくい錯覚に陥った。
真夜中の愁い