ひとりになる

 ぬま。通し番号で管理されている。あのひとは、八番目のひと。気分的に、愉快、というのとは真逆のものを抱えて、春の雨に湿ったアスファルトを、蹴る。ある日、とつぜん、眼鏡をかけるのをやめた。あのひと。深海の色を濃くして、夜は深まり、まるい月は、ぽっかりとあいた、あなみたい。臆病者の歌声は、やさしく。八番目のあのひとは、一から七番目のひとびとが、みんな、沼に咲く花の養分となったことを憂い、泣き、怯え、振り切れて、それから、わらう。
 肉が引き攣る感覚に、睡魔は遠ざかり、わたしは孤独を食む。

ひとりになる

ひとりになる

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-24

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