暗闇の夜に

 泣きながら笑っている、きみが、どうか、こわいものにおびえませんように。

 夢見る頃をとっくに過ぎて、スーパーマーケットのイートインスペースで、だれの視線も気にせずカップラーメンを食べられるようになったと、あのひとは言った。女の子になりたかった男の子が、おとなになって、女のひとになれないまま、男のひとでありつづける現実を、すこしだけ痛ましいと思った。
(自由、とは)
 社会という名の監獄で、鎖に繋がれて、ひきちぎれなくて、もがいて、暴れて、傷つくばかりだったのは、あの子のお姉ちゃん。この星の、欠陥部分をみつけても、どうにもできないと言い切った、わにさま。わたしのなかの、ぼく。ぼくのなかの、わたし。きみのなかの、わたし、もしくは、ぼく。あらゆる生命のなかの一組織でしかない、ひとびと。
 光を。

暗闇の夜に

暗闇の夜に

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-22

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