insomnia
都会は、深い海。
大気圏を越えて、救いの手をさしのべて。ノエル。いまはもう、だれにも祈られなくなった存在が、むなしさにうちひしがれて、不貞寝する。三月。消失する頃の、きみの記憶。一冊の本にして、丁重に、埋めた。同化して、桜の花びらとなり、散って、わたしたちの上に降って、二酸化炭素を排出しながら、孤独を疎んで、やさしさを求めて、愛に縋る、わたしたちを傍観する、星の一部となって、また、なにかとなる。
真夜中。狼の遠吠えで目を覚まし、いまの、狼は、あのこを連れていった個体だろうかと、想う。
たいせつにしてくれていると、きいている。
あなたの弟はだいじょうぶよと、白蛇がおしえてくれた。いつも、白い着物を着ている白蛇は、山に棲んでいるのに、着物がまったく汚れていないのだから、ふしぎだった。ときどき、わたしに、たばこを買ってくれと懇願し、白蛇はたばこを、うまそうにのんだ。
ノエルの声がしない夜は、憂鬱だった。
いつまでもつめたいシーツを纏っている気分で、わたしは、スマートフォンで、睡眠導入音楽を再生して、そのまま朝まで、浅い眠りをくりかえす。
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