疑似家族

 そっと起こしてね。朝は、もう、がらがらとくずれたし、信号機はイカレて、アスファルトに夜が染み込んで、きみたちは神経の揺らぎに苦悩し、動物園の動物たちは、遠くの星を見つめている。
 花びらの浮いた紅茶。
 アパートの、六畳間から発信する、だれかへの愛。
 百舌鳥がドーナツを揚げて、サクマが砂糖をまぶす。わたしがお皿に盛りつけて、幼いメメがテーブルにはこぶ。幸福はきっと、すぐそこにあるのに、どこかちがうところにある気がして、いつも、さがしている。テレビのクイズ番組で出題されるクイズを、しんけんにかんがえるサクマと、メメには、おだやかでやさしい海のなかに、いつまでも揺蕩っていてほしいと願う。
 あしたは水族館にイルカを観に行こうと、百舌鳥がいう。
 サクマとメメはよろこんで、わたしは、お弁当をつくろうと思う。
 サンドイッチ。
 ハムと、チーズと、たまごと。

疑似家族

疑似家族

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-15

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