切望

 深夜に、ねむれないほど、あのひとに逢いたくなったとき、星がかるく、シェイクされたみたいに、中身が、ごちゃ、となっているような、煩雑な街を、わたしはひとり歩いた。むかしはいたはずの、野良猫が、いまはもう、みんないなくなってしまった路地裏で、ときどき、カップルがキスをしていて、ばかみたいと思って、でも、わたしも、あのひとがとなりを歩いていて、そういう雰囲気になったら、するかもしれないと想像もした。コーヒーを飲みながら。
 水の底で、夢をみる。
 少量の愛を溶かしても、不透明なままの世界で、あのひとの、体温を失った腕がふたたび、血を通わせることはなく。
 なにかをうばっていくばかりの、歪んだ密閉空間で、わたしたちが、にんげん、として生きている姿を、もしかしたら神さまは、眺めて嗤っているのかもしれない。

(つめたい)

 進化しすぎた防音設備のおかげで、なにもきこえなくて、一瞬、宇宙で孤立したひとみたいな気分になるの、いやだから、はやく、わたしに逢いにきてよ。

切望

切望

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-12

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