切望
深夜に、ねむれないほど、あのひとに逢いたくなったとき、星がかるく、シェイクされたみたいに、中身が、ごちゃ、となっているような、煩雑な街を、わたしはひとり歩いた。むかしはいたはずの、野良猫が、いまはもう、みんないなくなってしまった路地裏で、ときどき、カップルがキスをしていて、ばかみたいと思って、でも、わたしも、あのひとがとなりを歩いていて、そういう雰囲気になったら、するかもしれないと想像もした。コーヒーを飲みながら。
水の底で、夢をみる。
少量の愛を溶かしても、不透明なままの世界で、あのひとの、体温を失った腕がふたたび、血を通わせることはなく。
なにかをうばっていくばかりの、歪んだ密閉空間で、わたしたちが、にんげん、として生きている姿を、もしかしたら神さまは、眺めて嗤っているのかもしれない。
(つめたい)
進化しすぎた防音設備のおかげで、なにもきこえなくて、一瞬、宇宙で孤立したひとみたいな気分になるの、いやだから、はやく、わたしに逢いにきてよ。
切望