EtudeⅡVIOLET

EtudeⅡVIOLET

三年前 2020

病室の窓辺に活けられた花瓶の花。それを見ながら君は最期の夢を見る。


 ここはどこ?なんだか懐かしい、あの日の香りがする。

 ここは⋯⋯。ここはいつもの台所。リビングルームにいるあなた。頑張って美味しい料理を作らないと。

 ここは⋯⋯。ここは二階の書斎。あなたの仕事場。紅茶を淹れた。冷めないうちにあなたのもとへ。

 ここは⋯⋯。ここはリビングルーム。窓から外の景色を眺めるあなたの後ろ姿。夕陽、消えていく。

 ここは⋯⋯。ここはケンカをしたベッドルーム。どうせなら笑っていれば良かったのに。


 風が吹く。窓辺の花瓶に活けられた花の芳香が部屋中を彩り、夕陽を見ていたあなたが心地よさそうにこちらを見て私の名を呟く。

『スミレ』

 何故だろう。涙が込み上げた。いつもと同じなのに……。同じ風景のはずなのに……。どうして?


 何もかも変わらずにはいられない。私の過ごした時間はもう思い出でしかない。そしてその記憶ももう……あとどれくらいの命なのだろうか。


 〜スミレ〜

 いつかは枯れる生命いのち


「きれいなスミレ」

「なんだか、しずかだなぁ」


『ピーーーーーーーーーー』《電子音》

三年後、2023/04/28

育てていた花が枯れ始めたので、水の代わりに葡萄酒をあげた。

冬に買った多年草だったんだけど、調べたら日本の春の湿気と暖かさには耐えられないみたいだった。

私はそんな薄紅色の枯れゆく花を見つめながら、やはり葡萄酒を口にした。

EtudeⅡVIOLET

EtudeⅡVIOLET

菫のような掌握小説。命のはかなさと、見つめる愛と。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 三年前 2020
  2. 三年後、2023/04/28