女神

 ルル。月光を浴びた寝台に、花が咲く。埋もれて。慈しんでも、先生は、だれも愛せないで、寂びれたホテルの部屋で、脱いだ古い殻を悩ましそうに、撫でる。ぼく、という存在を、わすれてしまったの?あなたはぼくに、懇願した。あたらしい私をみてくれと、縋るように言ったのに、先生は、いま、ベッドに横たわる、ぼくを、はじめからそこにいなかったみたいに、あつかう。ぼくを愛せないくせに、愛してもらおうなんて思わないでよと、ぼくは静かに憤りながら、たばこくさいシーツと同化して、よどんだ空気になる。朝になったら、みんな、ルルになっていればいいのに。世界でいちばんきれいで、無垢で、やわらかくて、まっしろな画用紙のようで、何色にも染まれる。ルル。ぼくから分裂した宇宙で、自由と平和を謳ってる。

女神

女神

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-02-24

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