密度
夜に、鹿が鳴いている、森で、骨すらも、土に溶けた生命のことを想う。月からやってきた、ひと。濃い、と思ったとき、てのひらを掠める、獣の気配。たしかなもの。うまれたことが、よろこばしいのだとやさしく微笑む、アルビノのくまと、聖母のような、メメ。不完全なぼくを、むりして完全になることはないと、なぐさめてくれる。あのひと。古ぼけたお屋敷で、いつか、夜しかない国になるよう祈っている、夜の怪物が、ていねいにいれてくれるコーヒー。砂糖と、ミルクをいれなくても、甘やかに感じる。ぼくと、もうひとりの、ぼく。七年に一度の、分裂にあわせて、ぼくのまえにあらわれる。ルル。ぼくのすべてを、肯定して。あしたも、ぼくは、ぼくでいて。くまと、ひとと、怪物と、ぼくが織り成す。真夜中のハーモニーが、あのひとの胸を打って。それで。
密度