深夜

 メメ。ゆっくりと唱える、祈りにも似たもの。藍色の底で、かなしいきもちばかりが沈殿していく。濾過も、浄化もされずに。モリの声に、はんのうするのは、星だけ。土。樹々。それから、花は可憐に揺れて。ふたごは手と、手をかさねあわせて、だれの不幸ものぞまない。(うそ)メメはすこしだけ、きらいなやつのことを、のろっている。
 二月の、血まで凍えそうなほどの、夜を歩く。おおかみとは、三日月の頃に出逢い、いまはただ、ひとりのにんげんとしての価値を、問う。モリが歌えば、この星の、にんげんいがいの生命体は、みんな、よろこびにみちあふれる。やさしくなって、おだやかになる。にんげんだけが、醜さを湛えたまま、ゆるやかについえてゆく。首に、やわらかな絹をまいて、じわじわと絞められてゆくように。途方もない、永遠。
 ひとりはさみしいでしょうと、おおかみは言う。
 さみしいという感覚を、わすれてしまった。わたしは答える。
 メメが、ファミレスで、いちごのパフェをたべているあいだに、モリは、月を見上げながら、たばこを吸っている。
 きっと思い出したら、すごくさみしいと思う。
 おおかみがつぶやいて、わたしは、どうかな、などと濁して、深まっていく夜に、あしをとられる。

深夜

深夜

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-02-16

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