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月は混じり合うことをきらった
ただ、しずかに、浮かんでいた
時代の流れを海の底から見ている
満ちても引いても
まるくても欠けても
ただ陸地につづく物語を照らした

愛とか繋がりとか絆とか
失ってから叫んでいる
たくさんのシナリオ
その上で糸は切れず
同胞に飛ばした怒号
見るに耐えず雲隠れ

海の上に新しい生命が浮かぶ
光る輪っかの中に複数形の命
輪っかは水の上で形を変える
そうして同じことを繰り返す

月明かりは太陽より強くなる
朝か夜かもわからない光の中
あやめの花が照らされている
わたしは子供のように駆ける
あやめに触れようと手をのばす

たくさんの遺産が星の上に転がる
その上をありがたがって踏んでいる
この先に形の無いものを見る者がいる
その力を失いながら全て踏んできた人

拝む資格がありましょうか

さみしく石段の上で誰かが言った
わたしには何もわからなかった
ただ無力なことは知っていた

群衆が写真を撮る
それが何かも知らず
ただわけもわからず
ありがたがって騒いでいる

月は五月蝿い時代を嫌った
それでも顔を出さねばならず
不機嫌な日も太陽は照らすから
何も変わらない顔色をして海の底

わたしはひとり
雪の中で価値の薄れた
二世代前の建物を見ている
それになんぼもつぎこんだって

おばあさんが小さな皿に茶菓子を乗せて
小さな信仰の在処に捧げてわらっている

ロープウェイの切符を買えずに苛立つわたし
あまりにもみにくくて、自己嫌悪の中にいる

持ってきた本は知らない言語で書かれている
これを訳せたのなら、うまくいく気がしている

月が海水に濡れながらこの星の歴史を語る夜
そうして二百年後について予言をして
不吉な満ち欠けの幻を見せながら
再び海の底に沈んでいく

あの文明は栄えた
今はもういない
あの文明も栄えた
今はもういない
明君がいたとさ
暴君がいたとさ
みんなもういない

月は混じり合うことをきらった

だから、このあとのこともわかっている

履き違えつづけた誰かの物語を見ている
海の底から、
月は似たような物語をたくさん見てきた
海の底から、
誰にも、誰にも、理解されない顔を持って
たくさんの秘密を、ひとつのからだに抱えて

それでも、

月は混じり合うことを嫌った

………ao ao ao………

………ao ao ao………

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-02-02

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