倒れたチーズケーキ

 さいごの壁が崩れて、そこから覗いている目と目があっても、べつに恋は始まらない。だからそんなにかんたんじゃないんだよ。
 コーヒーと、背の高いチーズケーキ。きみがたべているショートケーキは、はじめからきみが、ばたりと倒したので、もう寝そべって、おとなしくしている。チーズケーキは、いまにも倒れそうで、でも、倒さないでたべるのがすきだから、倒さないようにケーキの食べ方は決めてあるのだ。
 ほら、宇宙は見せかけの果てしなさで境界を隠してるだけなんだって、だからべりっと剥がしてむこうから高みの見物してるやつの目をじいっとみつめてやりたいんだ。
 いちごはちょうどケーキを半分たべた頃に手をつける派のきみが、じゅくじゅくのいちごにフォークを刺した。それは、痛いかも、しれない、なんて考えたりした。
 でもその壁を剥がしにいくまえに、宇宙の果てしなさを思い知るかもしれないよ。
 きみは、それでも泳いでいくだろうか。
 チーズケーキを倒すことさえおそろしいんだ。泳いでいくってきっと言うきみのことばを聴く勇気なんてないので、チーズケーキの角にざっくりフォークをつきたてて、その完璧な角度に、安心。

倒れたチーズケーキ

倒れたチーズケーキ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-01-29

CC BY-NC-ND
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